アビール・ムカジー著/ 田村義進訳
ドイツとの戦争で妻を失い生死を彷徨いすべてを失ったエリート英国人警部と、優秀ながらインドの独立を夢見て出世より警察官の道を選んだインド人刑事部長のコンビが、カルカッタのブラックタウンの娼館近くで惨殺された英国人政府高官の事件を捜査する。
インド東部最大の都市コルカタは、2001年まで英語読みでカルカッタと呼びならわされていた。
1919年4月、そのカルカッタに、生きる望みをなかば失ったひとりのイギリス人がやってくる。サム・ウィンダム。年は30代前半。かつてはスコットランド・ヤードの犯罪捜査部で鳴らした敏腕刑事である。1914年の夏、第一次世界大戦が始まると、志願して、フランス北東部の最前線に赴く。ドイツ軍との熾烈な塹壕戦で、仲間たちが次々に死んでいくなか、なんとか3年半もちこたえたが、終戦直前に被弾して生死のふちをさまようことになった。そして、ようやく死地を脱したとき、最愛の妻が流行(はや)りの病で死亡したことを告げられる。それ以来、モルヒネと阿片にのめりこみ、鬱々として淪落の淵に沈んでいた。
そんな折り、かつての上司からインドの警察で働いてみないかという誘いの電報が入る。故国イギリスですべきことは何もなかった。未練もなかった。それで、新天地をめざした。
そこで知りあった最初のインド人が、若い部長刑事サレンドラナート(イギリス人には発音しにくいとのことで、サレンダーノットと呼ばれている)・バネルジー。カルカッタ屈指の名門の出で、ケンブリッジ大学を出ているが、エリートコースを歩むことを拒否して、法執行機関の一員として働くことを決意する。帝国警察の採用試験ではじめて上位3名に入った秀才である。強い正義感を持ち、女性と話をするのが大の苦手というシャイな好青年でもある。
片や、生きるのに倦み疲れた、経験豊富なイギリス人刑事、片や、理想に燃える、新米のインド人刑事。そのふたりがインド帝国警察の上司と部下としてタッグを組む。
そして、いきなり出くわしたのが、イギリス人高級官僚の惨殺死体である。いまにも崩れ落ちそうな荒屋(あばらや)が立ち並ぶインド人居住区の一角で、その男はタキシード姿で喉を掻き切られ、胸を突き刺され、口に血まみれの紙切れを突っこまれていた。
当時のカルカッタの街は、北のインド人街(ブラック・タウン)と、南のイギリス人街(ホワイト・タウン)に二分されていた。そのブラック・タウンで、イギリス人の政府高官が殺害されたのだ。
時まさに帝国主義の時代である。藍やケシの強制栽培により小麦などの畑が激減し、その結果、数十万人規模の餓死者が出る大飢饉がしばしば発生している。また、不公平な関税政策によって、インド国内の地場産業は壊滅状態に陥り、民力は疲弊し、人々は貧窮の極みにある。当然ながら、現地には激しい怒りが渦を巻き、いたるところで反英闘争の烽火(のろし)があがりつつある。そんななか、1919年、植民地政府は悪名高いローラット法を制定し、危険人物と目された者を令状なしで逮捕し、裁判なしで投獄できるようにした。これに対して、インドの愛国者たちは猛反発し、一部の者は暴力的な手段に訴えるのもやむなしと訴えた。カルカッタを含むインドの主要都市には、いつ反政府暴動やテロが発生してもおかしくない緊迫した空気が流れていた。
そのような状況下での、政府高官の殺害事件である。反政府活動家による政治がらみの犯行という見方が出て、それ以外は考えられないとする空気が警察のなかでも外でも支配的になるのは当然の成りゆきだった。
だが、そうそう話は簡単ではない。調べを進めるにつれて、謎は深まるばかりで、すとんと胃の腑に落ちる答えはどうしても見つからない。そうこうしているうちに、筋の通らない奇妙な事件や出来事が頻発しはじめ、事態は混迷の度を増していく。
政府高官の死。深まる謎。憎悪。偏見。差別。非情。友情。淡い恋情。道徳と腐敗。売春宿。阿片窟……
ときはちょうど100年前の1919年、場所は歓喜の街とも宮殿都市とも言われるカルカッタ。案内人はアビール・ムカジー。
旅行でコルカタ(カルカッタの現在の都市名)訪ねた時、ベンガルの貧しい農民の青年が戦争に参加することにより、未来を切り開こうとする芝居をみたことがあります。
コルカタの旅写真
市場
ニューマーケット 本書に登場の市場
今年読んだ本 『北氷洋』の主人公はインド戦闘で軍を首になった医者でした。
本書の主人公は第一次世界大戦の従軍しやっとの国へ帰ると妻はスペイン風邪でなっなっていた。
インド独立前夜カルカッタ
ベンガルの人々には抵抗の歴史があると感じさせる作品でした。




