『片手の郵便配達人』を読んで ドイツの田舎の村 戦時中の暮らし | ・・・   旅と映画とB級グルメ と ちょっと本 のブログ

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『片手の郵便配達人』    著者グードルン・パウゼヴァング 訳 高田ゆみ子

森に囲まれたドイツ中部の七つの村を回り、ヨハンは郵便を配達する。1944年、17歳で入隊した彼は、すぐ前線に送られ、左手を失い、故郷に戻った。郵便鞄(かばん)を提げて彼が歩く道は美しい。花々や小川、乳搾りの描写は、絵本のような印象を残す。そんな地方にも戦争の暗雲は、確実にその影を押し広げていく。
戦地からの消息を待つ人々に、ヨハンは戦死通知を届けなくてはならない。降伏までの10カ月、その数は増え続ける。キーゼヴェッターさんは、孫の戦死を受け入れられない。オットーはナチス親衛隊員で、彼に密告された人々やその家族に深く恨まれていたのだが、祖母にとってはかわいい孫なのだ。彼女はなかば意識的に、ヨハンをオットーととり違えるようになる。
村々には、負傷して帰郷し将来に絶望して死ぬ青年もいれば、戦地で英雄になることを望む無邪気な少年もいる。知的障害のあるヴィリは正直に、戦争もヒトラーも「クソったれ」と罵(ののし)る。助産師だったヨハンの亡母は、命を奪う暴力全般に批判的な人だった。年表や政治家の演説には浮上しない、文学にしか描けない人々の姿である。
平和が戻るまで、ハリネズミや熊のように、外界と縁を絶ち冬眠できたらいいのに。そんなことを考えながらも、ヨハンはそれぞれの思いを受け止める。村人たちをみんな知っている彼の目を通して、ひとりひとりの気持ちや事情が、丁寧な筆致で静かに描かれ、一種の寓話(ぐうわ)性を帯びていく。昨年出た小説だが、著者はヨハンと同世代。長い時間をかけてこの物語は練り上げられ、磨かれてきたのだろう。
ヒトラーは死に、平和が戻る。だが結末は衝撃的だ。緊張と不安を抱えながらも牧歌的だった雰囲気から、ほとんどサスペンスのようなまさかの急展開。だからこそ、説教くささなど一切なく、鮮烈な過去が蘇(よみがえ)る。70年後の17歳は、人間を直視している。
戦地からの消息を待つ人々に、ヨハンは戦死通知を届けなくてはならない。降伏までの10カ月、その数は増え続ける。キーゼヴェッターさんは、孫の戦死を受け入れられない。オットーはナチス親衛隊員で、彼に密告された人々やその家族に深く恨まれていたのだが、祖母にとってはかわいい孫なのだ。彼女はなかば意識的に、ヨハンをオットーととり違えるようになる。
村々には、負傷して帰郷し将来に絶望して死ぬ青年もいれば、戦地で英雄になることを望む無邪気な少年もいる。知的障害のあるヴィリは正直に、戦争もヒトラーも「クソったれ」と罵(ののし)る。助産師だったヨハンの亡母は、命を奪う暴力全般に批判的な人だった。年表や政治家の演説には浮上しない、文学にしか描けない人々の姿である。
平和が戻るまで、ハリネズミや熊のように、外界と縁を絶ち冬眠できたらいいのに。そんなことを考えながらも、ヨハンはそれぞれの思いを受け止める。村人たちをみんな知っている彼の目を通して、ひとりひとりの気持ちや事情が、丁寧な筆致で静かに描かれ、一種の寓話(ぐうわ)性を帯びていく。昨年出た小説だが、著者はヨハンと同世代。長い時間をかけてこの物語は練り上げられ、磨かれてきたのだろう。
ヒトラーは死に、平和が戻る。だが結末は衝撃的だ。緊張と不安を抱えながらも牧歌的だった雰囲気から、ほとんどサスペンスのようなまさかの急展開。だからこそ、説教くささなど一切なく、鮮烈な過去が蘇(よみがえ)る。70年後の17歳は、人間を直視している。評者中村和恵 より
オットーは郵便配達によって、ドイツの敗戦が近いことを知っている。戦死通知が増え続けるからだ。若い男たちのいない村にいるのは、ポーランドやウクライナからの強制労働者。ヒトラー・ユーゲントのリーダーからSS隊員になった孫の戦死を受け入れられず、訪れてくるヨハンを孫オットーだと思い込むようになる老女……1944年、17歳で入隊した彼は、すぐ前線に送られ、左手を失い、故郷に戻った。郵便鞄(かばん)を提げて彼が歩く道は美しい。花々や小川、乳搾りの描写は、絵本のような印象を残す。そんな地方にも戦争の暗雲は、確実にその影を押し広げていく。
若いヨハンの誠実さ、温かさは人びとの心を開かせる。みながヨハンに不安、悲しみをあずけ、それをヨハンは受け止める。恋人イルメラとのつかの間の幸福、ドイツ降伏に続くささやかな平和。その後にヨハンを待っていたものは……