解るためには一生という時間が必要だと分かった件 | 笛吹きの備忘録

笛吹きの備忘録

おばあさんのモノワスレ対策ブログです。
アマチュア楽団でフルートを吹いています。
お芝居が大好き!

『秘密にしていたこと』を読みました。


帯は小島慶子さんが書いてます。

たぶん、母親と娘の確執だな…と思うでしょ。
いえ、いえ、そんな単純な話ではないのですよ。

「リディアは死んだ。だが、彼らはまだそれを知らない」と、ミステリっぽく始まりますが、事件と事故の両面から捜査!とか、自殺の可能性も捨てきれず…とか、の謎解きではなく、思わせ振りに謎の人物が登場したり、意外な事実が掘り起こされたりもしません。
もちろん崖もなし!

水死体で見つかった16歳の少女の家族の歴史が、短いセンテンスで、次々と事実のみを積み重ねて語られます。
だらだらと推理を語ったりもなし!
でも、だんだん分かってくるのですよ。
真相なんてものが分かったところで、何も解決されないということが…。

'50~'70年代のアメリカでの、あからさまな人種差別、性別による格差などが描かれていますが、'80代に生まれ21世紀に生きる著者は、それらによって個人がどのように傷つき、その傷によってどのような生き方を選ぶのか、人の心の謎を解き明かしつつ物語を進めていきます。
そして読者には、リディアがなぜ、そんなことをしたのか、事実が語られますが、物語のなかに生きる人々には、それを知る術がありません。だってこの本を読めないのですから…。
リディアの家族が、彼女の心を理解するには、まだまだ時間がかかることを暗示して、物語は終わります。

「気づけ。これに気づけ。すべてに気づけ。そして記憶しろ」
人の心を理解するには、それしかないのです。
長い時間をかけて、気づいたことの断片をつなぎ合わせ、輪郭を描き、とらえ直すこと、それしかないのですよ。

なんて重いメッセージでしょう。
「気づけ。これに気づけ。すべてに気づけ。そして記憶しろ」


ちなみに、訳者の田栗美奈子さんは、私とハープ&フルートデュオTwoNAを組んでくださっている美奈子ちゃんです。