タイのお寺で読んだ松本清張「時間の習俗」を再読した話 | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

※各段落の頭文字を繋ぐと「じ・かん・の・し・ゆ・う・ぞ・く」となるように工夫しました。

 

児童書の推理クイズか何かで子供の頃に、清張の「時間の習俗」のトリックを解説してあるのを読んだことがあった。当時は「ネタバレ」などという言葉もなく、有名ミステリのトリックの種明かしなどは、ごく普通に行われていた。

 

肝心の物理的なメイントリックの部分は子供には理解しかねたものの、「時間の習俗」といういかにも清張らしい独特のタイトルだけは、印象に残っていた。

 

後にお坊さんになってタイで修行させて頂いた時、バンコクのスクンビットにあるタイ人店主経営の古書店で、この「時間の習俗」を見つけて初めて読んでみた。

 

しかしながら、既にトリックを知っていたせいか、ストーリーがトリックだけを中心に組み立てられているように思えて、感心しなかった。

 

有名作である「点と線」の主人公と同じ二人の刑事が出て来るというのが、この作品の大きなポイントなのだけれど、当時の私にはそれも特に魅力とは思えなかった。

 

売れっ子になった清張が、そのきっかけの一つである「点と線」が掲載されたのと同じ「旅」という雑誌に「時間の習俗」を連載するに当り、清張としては珍しい(自身唯一の)シリーズ探偵として鳥飼・三原両刑事を再登場させたことは、今となっては大変に興味深いと思うのだけれど。

 

続編ではないとは言え、清張が「点と線」の成功を意識し、それ以上の作品をと意気込んだことは想像に難くないが、シンプルな分、作品のアラよりも文章力による物語の面白さが際立つ「点と線」と違って、「時間の習俗」の方は、同じく抑えた達者な文章が旅情を掻き立てるものの、プロットが複雑なのが却って災いしているような気がする。

 

くどくどと書いて来たけれど、結局のところ、久し振りに読み返してみた「時間の習俗」なのだが、清張の文章力の素晴らしさを除けば、他は自分がバンコクのお寺でこの本を読んだ記憶が大いに懐かしかったことだけが、今回の収穫ではあった。

 

 

                 おしまい。

 

※各段落の頭文字を繋ぐと「じ・かん・の・し・ゆ・う・ぞ・く」となるように工夫しました。

 

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