アジアの尼僧 | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

先日、西山浄土宗の管長に初めて尼僧の方が就任されたとのことなので、それにちなんで、改めて尼僧さんに関するあれこれを纏めてみたい。

 

「尼僧及び仏教における女性修行者とジェンダー」というテーマの学術研究はたくさんあるけれど、そもそも先ず、ブッダが比丘尼サンガの創設を一旦はためらったという歴史こそが、何より尼僧という存在の特殊性をよく表している。尼僧の世界に男僧と違った諸問題が内在することは、日本仏教界のみならず、現在のテーラワーダ(上座部)仏教、中国系仏教、チベット系仏教においても変わらない。

 

ブッダの決断によって成立した比丘尼サンガは、結局のところ、上座部仏教においては12世紀頃に滅んだ。タイのメーチーやミャンマーのティラシンを始めとする、上座部仏教各国で現在見かける剃髪した女性修行者たちは、比丘尼の法統を正式に継ぐものではないため、女性の「僧侶」であるとは見なされていない。

 

しかし、1996年にスリランカ仏教界において比丘尼制度の復興が成し遂げられ、その後、2001年にタイ人女性がスリランカで得度し、タイにも黄衣の比丘尼が存在することになった。タイ人比丘尼の誕生に関しては、2000年代の初頭に、日本の朝日新聞にも何度か記事が載っていたものだ。

 

一方で、大乗仏教の比丘尼制度は途絶えず存続しているので、正式な比丘尼となりたい女性仏教徒が、台湾などで受戒することは以前からよくあった。そして台湾や韓国の大乗比丘尼たちの活動は、スリランカなどの比丘尼運動とも連動しつつある。

 

そのあたりの事情を踏まえた上での比丘尼制度復興問題や、スリランカのダサシルマーターやタイのメーチーのような女性修行者に関する伊藤友美氏の非常に詳しい研究が、インターネット上で閲覧できる。またその概要とも言える伊藤氏の論考は、「挑戦する仏教」(法蔵館)という書籍にも収められている。

 

今ほど上座部仏教やテーラワーダ仏教に関する情報が溢れていなかった時代ですら、タイのメーチーやミャンマーのティラシンたちは、正式な比丘尼でないとは言っても、日本の僧侶よりも、よほど出家者らしい生活をしていると、タイやミャンマーを旅行した日本の男僧さんたちの旅行記などに、よく書いてあったものだ。

 

さらにテーラワーダ仏教に関する情報が1990年代以降、日本でも急速に溢れ出し、比丘尼やメーチーに関する研究も多くなり、テーラワーダ修行をする日本人男性僧侶ほどの比率ではないにしろ、タイやスリランカなどでメーチーなどの一時出家体験をする日本人女性(尼僧さん、及び学者さんを含む一般女性)も増えて来た。

 

私事ながら、スリランカ人比丘尼誕生に関する重要事項でもある、1998年のインドのブッダガヤにおける、台湾の仏光山主催の国際尼僧受戒会開催当時、私はブッダガヤの日本寺に駐在中で、駐在主任だった三橋ヴプラティッサ比丘と一緒に台湾寺での受戒会法要に招待して頂いたり、受戒会に参加するために日本寺に止宿した年配の尼僧さんたちのお世話を、駐在同期のH師たちと共にさせて頂いたりしたことを、今も懐かしく思い出す。
 
※本記事を推敲するに当り、「タイ仏教修学記 女性の出家」を参考にさせて頂きました。同サイト管理人の伊藤氏には、サイトの記事のみならず、ご連絡の際のちょっとしたご返信の文章の中からも貴重かつレアな情報を多分に頂戴していることに、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
 
 
                              合掌
 
 
※写真はタイの在家仏教徒人形。髪のある女性仏教徒はタイ語で「メーチー・ポム」と言います。タイのメーチーやメーチー・ポムは白衣、ミャンマーのティラシンは薄いピンクの衣を身に着けています。

 

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