フィリピンのトライシクルにちなんで | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

インドで「リキシャ」、タイで「トゥクトゥク」と呼ばれる三輪自動車のことは、前川健一氏の労作にして不朽の名著「東南アジアの三輪車」(めこん・1999年発行)の内容を踏まえて、前から何度も書かせて頂いたことがあるけれど、先日、あるテレビでフィリピンのトライシクルの特集を放映していたことに因んで、今一度、少しまとめてみることにする。

 

まず、先日の番組では、日本のある会社が、高いレンタル料を払ってトライシクルを借りているフィリピンのトライシクル乗りの人たちが、トライシクルを安く購入して自分の持ち物にするために安いローンを組むことの出来る、GPSを使ったシステムを開発した、ということが紹介されていた。

 

私はフィリピンの事情を詳しく知らないので、先の「東南アジアの三輪車」を繙いてみたところ、「東南アジアのあるテーマを考えるとき、『フィリピンを除く東南アジアの国々では』と条件をつけたくなることがしばしばある。」とした上で、174頁から僅か3ページだけ、トライシクルに関する説明があり、余り詳しいことが分からない旨、記されている(因みに三輪自転車などの、トライシクル以前のフィリピンの乗り物事情については、前の章で述べられている)。

 

ちなみに、タイと同様に「トゥクトゥク」とも呼ばれるスリランカの三輪タクシー事情についても同書には出ていないが、スリランカで得度なさった三橋ヴィプラティッサ比丘が私に下さったアール・イーというスリランカ専門の会社が出している「Beyond the Holiday スリランカ」というガイドブックには、スリランカの三輪タクシーは「three wheeler(三輪車)」と呼ばれることが最も多いのだが、タイと同じく「トゥクトゥク」と呼ばれたり、インドのように「オートリキシャ」と呼ばれたりするということが書かれている。

 
その他、タイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー、マレーシア、インドネシア、シンガポールにおける人力車、三輪自転車、三輪バイクについては、前川氏の著作にそれぞれの国での呼び名も含めてとても詳しく載っており、また東南アジアではないものの、三輪車の由来を説くのに欠かせないという理由でインドのリキシャについても説かれている(バングラデシュについては少しだけ記載がある)。
 
東南アジアの三輪車に関するニュースでは、2019年2月の朝日新聞に、カンボジアのトゥクトゥクの配車アプリに関する記事が載っていた。発行から20年経った今もその内容がいささかも古びていない「東南アジアの三輪車」ではあるけれど、さすがに配車アプリやGPSの登場を見ると、時代の流れを感じざるを得ない。
 
私はタイの三輪自動車であるトゥクトゥクではない、タイの三輪自転車(サムロー)は数回しか見たことがないのだが、ちなみに、最近になって四方田犬彦氏などの紹介によって日本でも有名になったタイのホラー映画「見えざるもの(เป็นชู้กับผี ペーン・チュー・カップ・ピー)」という映画を、私はタイでの封切り時に見たことがあって、この映画では女性主人公の「サムロー、サムロー」という呼び声が、古い時代のタイを象徴するかのように、効果的に使われている。
 
インドのコルカタの人力車(人力車型のリキシャ)については、私も乗ったことがあるけれど、この人力リキシャに関しては、その存続の是非を含めて、時おり日本のニュースでも取り上げられることがある。オートリキシャ(三輪自動車)以外に普通のリキシャ(三輪自転車)もインドではまだまだ健在で、このリキシャ(三輪自転車)とのやり取りについては旅行者それぞれに思いのあるところだと思う。私もブッダガヤのリキシャについてはいろんな思い出があるから、前川氏が「東南アジアの三輪車」を、インドのリキシャのエピソードから始めておられるお気持ちが、とてもよく分かる気が致します。
 
                             おしまい。

 

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