私が江戸川乱歩好きだとご存知の方が、NHKの「先人たちの底力 知恵泉 江戸川乱歩 前後編」という番組を録って下さった。
乱歩と清張の関係についてなど、余りテレビ番組では採り上げて来られなかった近年の研究成果や、ちょっと目新しい写真資料なども紹介されてはいたが、内容的にはまあこの程度だろうというのは仕方がないとして、明智小五郎に関する説明で、ちょっと気になったことがある。
まず1点。明智は上海から帰国後、「一寸法師」事件で突然モダンな西洋紳士風に変化したという説明。明智が「一寸法師」事件に携わった時は支那服姿であり、洋装になったのは、その後、また中国やインドを旅した後の「蜘蛛男」事件からだ。
もう1点。「魔術師」事件で、明智がある女性に対して恋心を抱いた時に、40歳を過ぎていたという説明も間違っている。明智の独白によれば、その設定年齢は「40歳近い中年者」だから、この時の明智は30歳代だ。
乱歩の孫に当たる平井憲太郎氏や若手の乱歩研究家である小松史生子氏などもスタジオに出演しているのだから、皆さんも細部までチェックして下されば良かったのにと思う。
ちょっと話は逸れるけれど、「明智小五郎年代学」(現在は集英社文庫版「明智小五郎事件簿」全12巻の各巻解説のタイトルにもなっている)の平山雄一氏が、緻密なシャーロキアン的考察に基づいて、例えば「何者」事件が「一寸法師」事件よりも後に起こったなどと決めつけていることすら私には問題があると思うのに、ましてや小林少年が二人いたとか、「超人二コラ」の玉村宝石店は実は明智文代夫人の実家だみたいな、乱歩が一言も書いていない設定が、多くの研究者によって書かれることによって定説化するのは如何なものかと思う。
ミステリ作家の芦辺拓氏による、明智の登場するパステイーシュ作品などは、あくまでも原作の設定に作者の想像を織り込んだ「創作」だから良いのだが、いくら遊び心に満ちた知的遊戯とは言っても、一見、実際の人物研究に見せかけた、「創作」と銘打っていない文章での「小林少年は二人いた」的な断言は、やめて頂きたいと思う。
ましてや、今回のNHK「知恵泉」のように、原作の設定を間違えて伝えることなどは問題外。
おしまい。