2019年5月18日付の朝日新聞にツチノコの特集記事があって、何故だろうと思ったら、ツチノコの町おこしで有名な岐阜県の東白川村で恒例のツチノコイベントがゴールデンウイークに行われた直後の記事だと分かった。
たまたま少し前に岐阜県出身の若い男性からこの村の話を聞いたところだったので興味深く思ったのだが、さて、「ぼくらの昭和オカルト大百科」(初見健一著・大空ポケット文庫・2012年発行)にはツチノコの項があり、よく引用される「和漢三才図絵」や「沙石集」のことも書いてある。
また、上の新聞記事にもある、1970年代のツチノコブームのきっかけとなった田辺聖子の「すべってころんで」(1972年)や矢口高雄の漫画「幻の怪蛇バチヘビ」(1973年)のことも出ているのだが、朝日新聞と「昭和オカルト」のどちらにも、小峰元「ピタゴラス豆畑に死す」のことが出ていない。
「ピタゴラス」は小峰が乱歩賞を受賞した「アルキメデスは手を汚さない」の次に著した小説で、ツチノコに咬まれたかのような死体が出て来るミステリ作品なのだが、今思えば1974年に発表されたこの作品は、前年と前々年に発表された田辺や矢口の作品によるツチノコブームを受けて構想されたのかも知れない。
ツチノコやその別名であるノヅチといった言葉の出て来る日本の古典としてよく挙げられる「和漢三才図絵」の他に、小峰の小説には「新撰字鏡」「康頼本草」「紀伊国続風土記」といった資料も紹介されているので、なかなかに詳しく楽しむことが出来る。
明治以降の民俗学関係の書物では、柳田国男の「妖怪談義」の巻末の「妖怪名彙」にヨコヅチヘビ、ツトヘビ、ツトッコとして見えているのがそれかと思われるが、残念ながら柳田の他の著作にツチノコのことがどの程度出ているのかを確認する時間が今回はなかった。
ちなみに「ツチノコの民俗学 妖怪から未確認動物へ」(伊藤龍平著・2008年刊)という研究書もあるのだが、未見。どちらも後日に調べたい。「古生物学者、妖怪を掘る」(荻野 慎諧著・2018年刊)という本は、妖怪の正体を古生物学的に推理する面白い本なのだが、ここにはツチノコが出て来ない。
南方熊楠の「十二支考」の「蛇に関する民族と伝説」中には「異様なる蛇ども」としてノヅチのことが述べられている。さすがは博覧強記の熊楠だけに、日本の古典として「嶺南雑記」その他、上に挙げた本に出て来ないような資料も挙げている他、西遊記を始め、洋の東西を問わぬ海外の資料にも詳しく触れ、またツチノコによく似た実在の動物を何種類も紹介している。
先の「ぼくらの昭和オカルト大百科」には、ツチノコの正体だと考えられる生物の一例としてインドネシア産のオオアオジタトカゲが挙げられているので、インターネットなどで是非、その画像を確認して頂きたいと思うのだけれど、それはさて置き、ツチノコについて生物学や神話伝説などを含む人類学民俗学などの両方から多角的に研究されたい方にとって、やはり南方熊楠の「十二支考」は必須の文献だと私は思う。
「ホームページ アジアのお坊さん本編 」もご覧ください。