※各段落の頭文字を繋ぐと「チ・エ・ス・タ・トン」となるように工夫してみました。
近頃、G・K・チェスタトンの著作の新訳版や新装版が相次いで出版されているが、先日は、長らく創元推理文庫で絶版になっていた「ポンド氏の逆説」が、南條竹則氏による新訳で刊行された。
江戸川乱歩がいみじくも形而上的手品、哲学乃至神学のトリックと喝破した「詩人と狂人たち」は近年、非常に再評価の声が高いようだけれど、こちらも同じく創元から南條氏による新訳が、「ポンド氏」よりも先に出ている。
推理小説とは厳密に呼びにくい作品も含めて、未訳だったチェスタトンの作品が2000年代になって、たくさん出版されている中で、特に南條氏は、以前は創元推理文庫でしか読めなかった作品の新訳を、創元、ちくま、光文社の三社に渡って、積極的に試みておられる。
ただ、南條氏のそうした業績のことは一先ずさて置いて、創元の中村保男訳は古くて読みにくいという方も多い中で、創元推理文庫がブラウン神父シリーズだけは、新訳版ではなく、旧訳のまま解説者だけを新しくして、シリーズ5作全部の「新装版」を今年に刊行したことは、中村保男訳ファンの私としては、とても嬉しい。
「頓馬」「膝栗毛」「韋駄天走り」「おばけ小姓」といった単語力も、或いは流れるような文章のリズムも全てが秀逸で、「ポンド氏」や「詩人と狂人たち」のような作品は是非、新訳で読みやすくしてもらい、ブラウン神父に関してだけは、創元推理文庫の中村訳が末永く読み継がれてほしいものだと、私は願う。