江戸川乱歩の戦後作品は総じて評価が低い。
戦後は評論や随筆ばかりで、小説の筆を取らなかった乱歩が、満を持して書き始めた本格長編「化人幻戯」も大方の期待を裏切り、かと言って、冒険活劇風「影男」の方も、戦前作品から何の進歩もない、といった迎え方をされた。中井英夫の「虚無への供物」の中の登場人物が、この2作品が連載され始めた当時、期待を持って読み始めたと語っているのが、まだしも珍しく好意的な評価であるくらいだ。
「凶器」や「妻と失恋した男」は海外作品のトリックを借りた駄作、力作の「月と手袋」は、力作ではあるが、戦前作品のような「色艶」がないなどと評価され(新保博久氏)、私の好きな「堀越捜査一課長殿」などは、例えば最近の新版春陽文庫の解説のように、今まで乱歩が使ったトリックの焼き直しに過ぎない、といった風に評する人がほとんどだ。
余談ながら、この春陽文庫の改版、今まで付いていなかった解説が全巻に付されているのだが、何ら目新しい切り口もなく、何のためにわざわざこの解説者を選んだのか、全くもって理解に苦しむ。
さて、私の手元に古本で買った角川文庫版「化人幻戯」があって、この巻は「凶器」「防空壕」「堀越捜査一課長殿」「断崖」といった戦後短編が同時収録されているので読み直してみた。
そうしたら思いの外、どれも面白く、よく言われているように、ハードボイルド、もしくは心理サスペンス風な文体を狙って成功していない場合もあるにはあるが、「堀越捜査一課長殿」や「防空壕」などは、文体も語り口も戦前同様の流暢さで、その中に戦後風俗も取り入れられているのが興味深く、決して悪い作品ではないと思う。
大人向け作品の事実上、最後の作品と言える「ぺてん師と空気男」なども、発表当時、「乱歩はもう駄目だ」などと酷評されたそうだが、結末にもう少し深みがあればとは思うものの、「いたずらの天才」からネタを無断で大量に拝借しているにも関わらず、楽しい物語になっていると思う。だから、乱歩自身は秘かに気に入っていたらしいこの「ぺてん師と空気男」が、最近の女性研究家などによって再評価されているのは、誠に喜ばしいことだと思う。
名作群と評される初期短編や通俗長編と同じ魅力に満ちた乱歩の戦後作品、もっと評価されてほしいと私は思う。
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