先日、角川文庫版の「注文の多い料理店」を読んだら、「水仙月の四月」の注釈に、「象の頭の形をした山」の説明があり、賢治作品では他にも「ひかりの素足」にこの山が登場する、象頭山と呼ばれる山は日本各地にあり、これは魔神シヴァの息子、象頭神ガネーシャの仏教的受容(聖天)などと書いてあり、その上、象頭山のふりがなが「ぞうとうさん」となっている。
ブッダゆかりのインドの仏跡・象頭山は、普通、「ぞうずせん」と読む。それにちなんだ日本の社寺の山号が象頭山である場合、「ぞうずさん」と読むのが普通だ。
この名前は、この山が、象が寝そべった形をしていることにちなむ名前で、同じくインドの仏跡・霊鷲山(りょうじゅせん)が鷲の形をした山容から名付けられ、また霊鷲山にちなんで、日本各地に霊山、鷲峰山、鷲羽山などの山号があるのと、同じ状況だ。
先の注釈は、「宮沢賢治 幻想空間の構造」(鈴木健司著)という本を参考にしているそうなのだが、その本が図書館になく、参照できなかったので、とりあえず、象頭山とガネーシャは関係ないとか、ふりがなが「ぞうとうさん」なのはおかしいと早急に決め付けるのは保留にするが、さてさて、それはともかく、ブッダが説いた「燃火の教え」ゆかりの仏跡である象頭山は、現地名をガヤ・シーサーと言い、ガヤ駅からブッダガヤに向かう道中、尼蓮禅河沿いの旧道ではなく、バイパスと呼ばれる新道からよく見える。
仏跡巡拝の団体旅行なら立ち寄る場合もあるだろうが、バックパッカーや個人旅行者の皆さんには、あまり馴染みがないかも知れない。
トラベルサライという旅行会社は、仏跡巡礼に強く、象頭山より遥かに交通の便が悪い鶏足山(グルパ・ギリ)の案内などもしてくれるそうだが、象頭山はどうだろうと思ってホームページを見たら、やっぱり最近の情報がいろいろと載っていた。大したものだ。
そう言えば、手塚治虫の「ブッダ」にも、「象頭山の教え」(第5部第8章)というシーンがあるから、一般の方でも象頭山の名を聞いたことがあるかも知れない。手塚は多分、資料写真などを見ずに絵を書いたのだろう。山のてっぺんに、ぴょこんと象が乗っている、変てこな造形の象頭山のカットが微笑ましい。
⇒その後、「宮沢賢治 幻想空間の構造」を確認したが、まず「ぞうとうさん」という振り仮名はなかったので、多分これは角川文庫の解説者が振ったものだと思う。
象頭神と象頭山の関係については、やはり異論があるが、煩雑になるので、いずれ稿を改めたいと思います。