澁澤龍彦「高丘親王航海記」のこと | アジアのお坊さん 番外編

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8月5日が澁澤龍彦の命日だということを、この程、久しぶりに読み直した澁澤の「高丘親王航海記」の中公文庫版解説で知った。

さて、私は「高丘親王航海記」を、遥か昔、お坊さんになる前に読んで、いたく感銘し、その後、一度も読み直さずに来たのだが、とても面白い小説だと思ったままになっていたこの小説が、今回の再読で全く面白くなかったので、本当に驚いた。

平安時代に実在し、インドを目指してシンガポール辺りで客死したと言われる高岳親王に題材を採り、親王が異国で出会った幻想的なあれこれを描いた作品であり、かつ澁澤の遺作でもあるこの小説が面白くないなどと言えば、澁澤龍彦を神の如くに崇めるファンの皆さま方から、多大なるお叱りを受けるだろうと思うが、多分、これは私の個人的な問題に過ぎないのだ。

初めてこの小説を読んだ時、私はまだ海外に出かけたことが一度もなかった。そして当時の私は、異国で見知らぬ生物や文物を見た昔の人は、本当にそれらの事柄を、妖怪や神変不可思議だと感じることだろうと考えていたところだったので、正にその感覚を物語化した「高丘親王航海記」を、とても素晴らしい小説だと思った。

けれど、その後、お坊さんになった私は、タイやインドのお寺に何年も住み、また他のアジアの国々も巡礼して、思いもしない物をいっぱい見て、驚くような体験をたくさんした。

私も若い頃は、現実よりも幻想の方が、よっぽど素晴らしいと考えていたのだが、いかんせん、その後の自分の人生の方が、ずっと楽しかったからこそ、今読み直した「高丘親王航海記」が、面白くなかったのだということにしておきたいのですが、如何なものでしょうか?
 
 
 
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