まず中国雲南地方の上座部仏教(テーラワーダ仏教)についての報告自体が、日本では大変に珍しいから、これはなかなか貴重な書物だ。本体価格800円という、手頃な値段も有難い。
興味深かったのは、この地域のサーマネーラ(20歳に達していない小僧さん。文中では「見習僧」と訳されている)が、戒律の厳しい上座部仏教の小僧さんであるにも関わらず、袈裟を脱いで平服を着ることが、場合によっては有り得るという話。
例えばタイの小僧さんに関して言えば、子どもであっても、日本のお坊さんに比べて遥かに出家者らしい生活を送っているとは言え、そこは子どものことだ、いろんなことがあるし、いろんな話も聞く、でも見習い僧とは言え、一度、得度した者が、袈裟を脱いだり、普通の服を着たりということは、基本的には許されていない。
また、この雲南省徳宏地域では、正式な僧侶(比丘)においてすら、戒律の緩さが見られるとのこと。午後に食事を摂ったり、時には飲酒も、ということだ。
さて、日本のお坊さんは堕落している、五戒も守らずに酒を飲んでいる、などという批判をよく聞くが、実を言うと、他のいくつかの大乗仏教国でも、日本ほどではないにしろ、戒律の緩いエピソードを聞くことが、なくはない(もちろん多くの国の大乗仏教僧は、テーラワーダ僧同様に、出家主義の厳しい戒律を守っています。念のため)。
だが、この本にあるような、上座部仏教国でありながら戒律が緩いというパターンは、大変に珍しい。実際、この本の著者も、国家体制の違いなど、いくつかの原因を考えた上で、テーラワーダ仏教は厳しい戒律を守る出家主義が信条であるという今までの仏教研究の公式に、もう少し幅を持たせることを提案しておられる。
思うのだが、たとえ大乗仏教が起こったとしても、僧侶の衣の色・形や生活スタイルは、そんなに突然、変わらなかったはずだ。現に大乗仏教であるチベット系の仏教の法衣は、テーラワーダの袈裟や衣と、それほど大きく違わない。
それが中国に仏教が入って以来、どうして法衣やその他の点が、随分、変わってしまったのだろうか、誰がどの時点で変革しようと言い出したのか、ずっと疑問だった。
もちろん歴史的に、インドから雲南を通って中国に仏教が輸入された訳ではないのだが、仏教が世界に広がる時に、どのように変容を遂げて行ったのかを考える時の一つのモデルとして、この地域の事例は、とても興味深い。
余談ながら、テーラワーダ仏教では、通常、戒律違反であるとして自転車に乗ることは禁止されているのだが、雲南地方のお坊さんは自転車に乗っているという噂を、以前に聞いたことがあった。この本を読んで、この地域は戒律状況が違うのだということが分かり、ようやく納得が行った。
※ホームページ「アジアのお坊さん」本編も是非ご覧ください!!
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