すると、こんなに夜遅くなのに、駅前の屋台の椅子に腰かけて、黄衣を着たタイのお坊さんが、誰かと話し込んでいる。
駅のホームに入ると、今さっきのお坊さんが、タイの駅は裏や表のあちこちからホームに上がれるので、いつの間にか先回りして、ホームのベンチで坐っていた。
そのお坊さんは、うとうとベンチで舟を漕いだかと思うと、隣に坐った、バンコクに向かうのであろう、めかし込んだ若い女の子に話しかけたりしている。私がタイで修行中は、女性の横に坐らぬように気をつけたものだが、元からタイ社会に暮らすタイのお坊さんは、戒律について熟知しているから、かえって適度な臨機応変具合が分かるのだな、などと考えていると、身振りで私に横に坐れと言う。
ルンピー(お坊さま)、ルンピーもクルンテープ(バンコク)に行かれるのですかと私がタイ語で尋ねると、外国人相手だからか、子どもに対して日本でお坊さんが、「お坊さんはね…」と話すように、「ルンピーはね、ランパンに行くんだよ」と言って、ダメダメと言うように、両手の人差し指をペケの形に合わせて首を振る。
そう言えば、改札のところに、外国人向けに英語で書いてあった。現在、バンコクと反対の北のチェンマイ行きは、途中、工事のために不通になっているから、代替バスがどうとかこうとか。
せっかく向こうから話しかけて来てくれたからと思って、日本から来ましたと私が言っても、興味を示す風でもなく、今度は後ろの席のキンマ売りのおばさんに、お母さん、どこまで行くんだいと聞いたりしているが、おばさんはもとより列車が着いたら乗客にキンマを売るために待機しているだけだろうからか、返事もしない。
一方で、また私に話しかけて来て、衣の間から取り出した封の開いたメントス・キャンディーを下さり、返さなくていいから全部持って行けと言う。
そうこうする内に、バンコク行きの列車が定時に着いて、お坊さん以外の我々は向かいのホームに渡り、ルンピーは眠っているのかなと思って元のベンチを見ると、夜目にも黄衣の鮮やかなお坊さんは、片手のみならず、両手を高くかざして大きく振りながら、にこやかに見送ってくださった。
ルンピーは、思うようになかなか故郷のランパンに帰れずに、人恋しかったのだろうか? などとまた考えながら、寝台で横になったが、車内がとても乾燥していたので、頂いたメントス・キャンディーが、お陰さまで大変役立った。
おしまい。
⇒「ルンピー」(ルアンピーとも表記)とは、中堅どころから、比較的若いめのお坊さんを指すタイ語です。住職級から、ある程度、年配のお坊さんのことは、「ルンポー」(ルアンポー)と言います。ついでに、単純にちょっと年行きのお坊さんのことは、「ルンター」とも言います。
詳しくは
「お坊さんの呼び方 1」をご覧ください!!
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