タイ ワット・パクナムの断水 | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

 日本のマンションの屋上などに設置された貯水槽、正確には高置水槽と言うそうだが、それを遠目に見た時に、ふっとタイを思い出す。
 
 私がテーラワーダ(上座部)仏教のお坊さんとして、黄衣を着て修行させて頂いたワット・パクナム寺院は、バンコクと言っても王宮などのある、観光客の多い市街地ではなく、チャオプラヤー川を渡った旧市街のトンブリ地区にあって、外国人僧侶を多く受け入れていることでも有名なお寺だ。
 
 お寺に入って最初の頃は、タイ人僧侶と同じ僧坊棟に住ませてもらっていたが、すぐ後に、何階か建ての立派な外国人僧侶専用僧坊が、境内の運河沿いに竣工した。
 
 厳密に言えば、上座部仏教の戒律では、お坊さんは床に寝なければならず、ベッドに寝てはいけないことになっているのだが、新僧坊の各個室には、作り付けのベッドまである。
 
 もちろん、ふかふかのマットなどは使わず、床に寝る時同様のゴザをベッド台に敷いて寝るだけだが、それでも上座部寺院にベッドがあるなんて、外国人はベッドで寝なければいけないと思い込んだ上での設計だったのだろうか?
 
 そう言えば、昔、日本のとある観光寺院で修行中のこと、宿坊に泊まりに来た西洋人参拝者がどうしても床では寝ることが出来ず、みんなで長机を並べた上に布団を敷いて、ベッドの代わりにしたことがあったが、でもワット・パクナムに関して言えば、外国人僧は、みんな床に寝ることに慣れたアジア出身のお坊さんばかりだったのだけれど。
 
 それはともかく、旧僧坊には天井にプロペラ式の扇風機が付いていて、それが至って情緒がある上にとても涼しくて、初めて熱帯暮らしをした私を喜ばせてくれたものだったが、新僧坊にはなぜか天井にファンが付いてない。「西洋式の部屋」だから付けなかったのか、誰に聞いても理由は不明で、暑ければ扇風機を買えばいいと言われたものだ。
 
 さて、その新僧坊だけがポンプで屋上の貯水槽に水を運ぶ方式の水道だったのだが、このポンプがかなりの頻度で故障する。停電ではなく、単純なポンプの不具合なのだが、その度に寺務所に連絡しなければならず、水を浴びている最中に断水することも多くて甚だ便利が悪い。
 
 その後、タイの修行を終えてから赴任したインドでは、もっとしばしば断水に悩まされることになるのだが、 アジア在住者の皆さんにとってはお馴染みの断水も当時の私には初めての経験で、身体に石鹸を塗りたくって水で流すだけの簡素な水浴びなのに、石鹸を身体に塗った時点でめでたく断水、水が出ない間、身体がカピカピになるという、これも熱帯アジアではお馴染みの事態に、毎度、困らされた。
 
 …というようなことを、日本でマンションの貯水槽を見る度に、いつも懐かしく思い出す。
 
 
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