師走にお坊さんは走りません。 | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

 年末も押し迫ってまいりまして、「師走」とは普段は走らないお坊さんまでが走り回るほどに忙しい12月の様子を表しているのだという説明も、よく目にするようになりました。

 実際問題、12月がお坊さんにとって、そんなに忙しい月なのかどうか、というお話を、昨年末にも書きましたが、とりあえず、「お坊さんが走る」説は、平安時代の色葉字類抄にまで遡る、と皆さんがネットなどに書いておられるけれど、こんな特殊な原典に、実際に当たって確認した人がどのくらいおられるのだろうかというのが、私の秘かな疑問です。

 さて、この押し迫った時期に、お陰さまでゆっくりと大型書店に立ち寄る暇がありまして、日本史資料のコーナーに、覆刻日本古典全集の伊呂波字類抄(色葉字類抄と同じ書物)というのがあったので、確認しようとしましたら、大事な巻だけが抜けていて、調べることが出来ませんでした。誰かが師走のことを調べるために買ったのか?…などということはないでしょうけれど…。

 テーラワーダ仏教227条の戒律中に、「走るな」と明確には書かれていないのですが、南方上座部仏教のお坊さんは、走ってはいけないことになっています。

 日本のお坊さんの場合は忙しく走り回ることもありますが、それでもやっぱり小僧の時に、「急がずに走れ」などと躾けられ、忍者のように足音を立てずに走るすべを身に着けたりしたもので、落ち着いた動きが重要とされています。

 何にしてもブッダの時代から、本来、お坊さんは走らないものだとされていた訳で、そのお坊さんが走るほど忙しい、という表現は、真偽の程はともかくとして、実感のある面白い例えだと思います。

 気ぜわしい時期であっても、走らず慌てず、落ち着いた年を迎えたいものですね。

                              おしまい。



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