前川健一氏の「異国憧憬‐戦後海外旅行外史」(JTB)は、旅好きの人間には必読の書だ。
戦後しばらく制限されていた日本人の海外渡航が、1964年4月に自由化されてからの、日本人の海外旅行における、いろんな事象の変遷を詳しく述べた本だ。
著者は「ローマの休日」や「慕情」、007シリーズといった洋画、「カスバの女」や「憧れのハワイ航路」といった往年の歌謡曲から、日本人の外国への憧れを読み解き、或いは当時から現在に至る旅行用ガイドブックや雑誌の旅行特集について分析する。
他にもスーツケースからキャリーバッグに至る旅行鞄の変遷、洋酒やマカダミアナッツのような、以前には定番だった海外みやげに潜む事情だとか、昔の新婚旅行の行き先になぜ南九州が多かったのか、それがいつからハワイを始めとする海外旅行に取って代わられたのかといった、興味深いテーマが目白押しだ。
2003年頃の前川氏にとっての関心は、日本人の戦後海外旅行史だったようで、戦後の日本人の海外旅行を書物から読み解く「旅行記でめぐる世界」(文春新書)と、日本人の戦後旅行史をタイに限定して掘り下げた「旅行人」通巻133号(2003年3+4月号)掲載の「バンコクの29年」、そしてこの「異国憧憬」は、すべて2003年の著作だ。
2010年発行の「タイ検定」(めこん)の執筆者の一人にも名を連ねておられる前川氏だが、分けても「異国憧憬ー戦後海外旅行外史」は、初期の名作「バンコクの好奇心」(めこん)、中期の労作「東南アジアの三輪車」(旅行人)に続く、前川氏の優れた到達点であり、本当にどこから読んでも面白い。
●海外旅行が自由化された60年代後半から現在にいたるまで、若者の留学記や旅行記があまた出版されてきたが、そのほとんどは露と消えた。ものを見る目と、それを表現する文章力の差が、勝敗を分けたのである。…「旅行記でめぐる世界」…
●「深夜特急」もまた、「自分探しの旅物語」だと書評か何かで読んで、「インテリ青年の苦悩の告白」など苦手な私は、いままでずっとこの本を読まなかった。旅を正当化する立派な理由などなにも必要ないのだと、私は思っているからだ。…「旅行記でめぐる世界」…
●外国からはるばるタイにやって来た若い旅行者たちが、貧乏ということは考えられない。自称貧乏旅行者はいくらでもいるが、タイの貧乏人並みに貧乏な旅行者はめったにいない。…「タイ様式」…
●「タイ人は時間を守らない」という感想から、外国人は二種類の結論を導き出す。「だから、タイ人は駄目なんだ」というものと、「時間に縛られず、なんと人間らしい生活をおくっていることか。それにひきかえ秒刻みの生活を送っている我々は…」という二種だ。私はどちらの意見にも同意しない。タイ人は本当に時間を守らなければならないときには守るし、どうでもいいときには守らないからだ。…「バンコクの好奇心」…
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