1990年代の「地球の歩き方 インド」には、インド個人旅行あるある漫画が載っていたのだが、その中に、インドで出会った旅人同士が、日本で再会しようとするシチュエーションのネタがあった。
インドで約束して、日本の都心で待ち合わせするのだが、女の子は日本では普通のOL姿なのに、そこに現れた男の子の方は、ルンギ(腰布)姿にチャッパル(インドのサンダル)履きで、女の子に向かって、通行人の目も憚らず、大きな声で、「ナマステー!」。本当にあると思います、こんな状況。
インドを旅した人が、日本に帰って何かにつけて、インドではこうだった、ああだったと、インドのことを引き合いにして話し出す、というのはよく聞く話だが、最近の比叡山時報に、老僧の思い出話として、仏跡巡拝でインドを訪れた老僧が、自坊に帰って来てから、「インドでは…」とばかり口にしては、周りを困らせたという、微笑ましいエピソードを書いておられる方がいた。
仏跡巡拝のツアー旅行であっても、インドの旅は大きな影響を人に与えるという見本ではあるが、これはインドを旅する人が単純な精神構造をしているからという訳ではなくて、インドという国が、果てしなく奥深く、複雑だからなのだろうと思う。
何にしても、世界には日本とは違う規範で成り立っている国がたくさんあるということを実際に見聞して、そのことが自分の血となり肉となっているならば、とても幸せなことだと思うので、「インドでは…」を繰り返す人々のことを、私は笑おうとは思いません。
おしまい。