海外で修行する日本人上座部僧(テラワーダ僧)は案外たくさんいて、相互の連絡やお付き合いがある場合もあれば、どの国にどんな日本人上座部僧がおられるかという情報を、風の噂で知っているだけの場合もあって、その全貌は正確には分からないのが実情だ。
さて、これも昔の話。タイのあるお寺で修行中の日本人上座部僧の所に、我々の先輩に当たる、他国で修行中の別の日本人上座部僧が来ているということで、訪ねてみたことがある。
お供養にと思ってコンビニで冷たい缶ジュースを何本か買ったのだが、maleeというメーカーのトマトジュースが私は好きで、何本か混ぜておいた。タイではトマトジュースはそんなに有りふれていないから、喜んでもらえるかも知れないという思いもあった。
そうしたら案の定、先輩僧は、お、トマトジュースですか! と喜んで下さったのだが、多分、トマトジュースだけがタイ人に人気がなくて売れ残っていたのだろう、どのトマトジュースの缶も、飲み口の部分が僅かずつ錆びていた。
缶ジュースと言っても、タイ式にストローで飲む訳だから、自分の口に缶の飲み口は直接触れないにも関わらず、先輩僧は顔をしかめ、ストローが錆びた部分に触れないように、もどかしそうにジュースを飲んでいる。
何事も日本と同じようには行かないアジアの状況に、慣れたふりで何も気にしない日本人の方が立派だとは思わないが、東南アジアで暮らして何年にもなる先輩僧のその仕草に、私は当時とても違和感を覚えた。
元々日本仏教のお坊さんだったその先輩僧は、自分の目指す活動に適しているから今はテラワーダ僧でいるだけで、自分の心は大乗仏教僧のままだよとも仰っておられた。程なくしてその先輩僧は還俗し、在家の一般人として現地に残り、今も現地のために活動を続けておられるということだが、これもまた、風の噂だ。