日本の地蔵事情はちょっと特殊だ。たとえば中国や韓国のお寺にだって地蔵菩薩は祀られているし、地蔵信仰はある訳だけれど、日本のように事あるごとに地蔵像が建立されたり、昔話にお地蔵さんが登場したり、愛らしいデフォルメされた地蔵商品が販売されたりしている国は、ちょっと他には見当たらない。
とりあえず今昔物語集の巻十七は地蔵霊験譚で占められているし、笠地蔵を始めとして現代でも昔話の中でお地蔵さんはなじみ深い存在だ。創作童話の「おこりじぞう」などは半ば古典化しているが、これに触発されたと思しき後発の童話も少なくない。
地域差はあれ、日本の路傍や辻々の至る所にはお地蔵さんが立っているし、火災地の跡に建ったビルの玄関や、飛行機の墜落現場に向かう山道に、あるいは各地の交通事故現場に、今も無数の新たな地蔵像が建立され、よだれかけを供える人が跡を立たない。
お地蔵さんに関する本もたくさん出版されていて、甚だしきは地蔵事典まで存在するような、こんな国は他にはない。あたかも「地蔵菩薩」は日本で「お地蔵さん」という新たな菩薩となり、新たな信仰の形態を展開しているかのようだ。