タイでの修行を終え、香港経由で帰国の途中に、             台湾のお坊さんに間違われた | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

 タイでのテラワーダ修行を終えた私は、来た時と同じ日本のお坊さんの作務衣に着替え、毎日、僧坊の窓から眺めた運河と椰子の木も見納めて、香港経由で日本へ帰りました。

 3月の香港はまだ寒く、香港人はみな、コートを着ている季節でしたが、夏の作務衣で裸足にサンダルという私のいでたちにも、現地の人たちは全く無関心でした。重慶マンションに泊まろうが、屋台で汁ソバを食べようが、地下鉄の席で女性と隣り合わせようが、誰も彼もが私がお坊さんであることに、何の反応も示さないのでした。

 ところが香港から台湾に向かう機内では、真っ先に精進料理の焼きソバが私の席に運ばれて、周りの日本人団体に唐揚げやビールが届いた後も、台湾人アテンダントたちが、入れ替わり立ち代り、私の世話を焼いてくれるのです。

 どうも台湾人と間違われているようだったのですが、一人のアテンダントが合掌しながら、長々と相談めいた口調で話しかけてきた時に、とうとう自分が台湾人ではないことを告げましたら、そのアテンダントはちょっと驚いた様子で、それでも嬉しそうにうなづきながら、キャビンの奥へと去って行きました。

 後で思えば、香港の空港で、チェックインを済ませてロビーの椅子に坐っている私に、搭乗券ではなくチケットの方を見せろと慌てた様子で言ってきた地上スタッフがありました。アナウンスもせず、私のお坊さん姿だけを頼りに広い空港内を探して、ベジ・メニューをオーダーしてくれたのでしょうか。

 まだ海外での経験も、お坊さんとしての修行も、ずっと浅かった頃の思い出です。