六波羅蜜でもいいけれど。 | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

 お彼岸ということで、彼岸の中日をはさんだ前後の6日は、布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧の六波羅蜜をそれぞれ修行する日だ、などという説明を目にする機会も多いことと思う。

 日本のお坊さんは六波羅蜜が好きで、何かと法話や仏教書の説明には六波羅蜜が登場するのだが、さて、日本のお坊さんは、日々、六波羅蜜を心にかけて修行を続けているのかな?

 原始仏教、並びにそれを引き継ぐテラワーダ仏教において、最も基本となる実践徳目は八正道だろう。これはブッダが最初に説いた教えでもあり、もちろん大乗仏教徒にもよく知られている。ただ、正しい行い、正しい言葉といった条項は、ごく一般的で、ありきたりな道徳科目の羅列に見えるかも知れないが、実は瞑想実践の確かな裏打ちがあってこそ、意味を持つ。三十七道品の中に含まれる、八正道でも七覚支でも四正勤でも、あるいは大乗、テラワーダに共通する十善戒でもみなそうだ。

 六波羅蜜のうち、布施と忍辱は大乗仏教にしかない徳目で、この2つが自分の悟りだけを目指す利己的なテラワーダ仏教と大乗仏教との大きな違いだ、などという説明が大嘘で、六波羅蜜ないし十波羅蜜が大乗仏教以前から説かれていることについては、以前も書いた。

 というわけで、八正道が小乗の修行方法で、六波羅蜜が大乗の利他に基づく菩薩の修行方法だなどというのも、日本で誰が言い出したのか、根拠のない対比だ。とは言っても、別にテラワーダだけがブッダの教えを正しく継いでいて、大乗仏教や日本の仏教が駄目だなどと言う気はさらさらない。

 しかし私は日本のお坊さんたちに聞いてみたい。六波羅蜜だけでも十分だとは思うけれど、あなたの六波羅蜜に関する理解や説法は、六波羅蜜の確かな実践と修行の裏打ちに基づいたものですか?


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