ソウルでも釜山でも、韓国の地下鉄には物売りが乗ってくる。日用品やちょっとしたアイデア商品のような物を、香具師(やし)よろしく、口上もなめらかに売りに来る。大抵の乗客は寝たふりをするか目をそらす。
身を持ち崩した人が地下鉄の物売りになる、というシチュエーションが韓国ドラマにはよく出てくるが、実際、彼らから物を買っている人には、困った人を助けてあげるという意識が強いそうだ。
釜山の地下鉄の終点のノポドン駅のバスターミナルからは、仏国寺(プルグクサ)や通度寺(トンドサ)行きのバスが出ているし、一つ手前は梵魚寺(ポモサ)駅だから、この路線には作務衣姿でお寺参りに行く女性がよく乗っているが、確かに彼女たちは物売りから物を買っている率が高い。タイにおけるタンブンと同様、人に施すことで徳を積むのだろう。
タイやインドの列車の物売りは、新聞や飲食物を売りに来る程度だが、インドの長距離バスには、やはり口上と共にアイデア商品的な物を売る物売りが乗って来る。インドの長い長い踏み切り待ちやバスターミナルでの小休止中に乗り込んで来るのだが、調子に乗った乗客との掛け合いが始まって、車内が笑いに包まれることもある。
韓国と違って乗客は興味津々で売り子に注目しているが、韓国の地下鉄との一番大きな違いはと言えば、何と言っても日本人から見ればまがい物にしか見えない代物が、飛ぶように売れて行くことだろう。