映画館で観たのは五年前ですが、あまりに強烈な作品だったので、ずっと忘れられない一本でした。
妊娠していた婚約者を残酷極まりない殺人鬼に殺された主人公スヒョン(イ・ビョンホン)の
今までの映画では観たことのないほど壮絶な復讐劇!!
残忍なやり方で殺されてしまう婚約者ジュヨンを演じたオ・サナがすごく可愛いから、
なおさらやるせない。
命乞いをしても にべもないギョンチョル(チェ・ミンシク)の冷酷さに
冒頭から観客の怒りは早くもMAXになる。
すなわち【復讐もの】としてのお膳立てがしっかり出来てるということ。
しかし、本作はその復讐方法の徹底ぶりが、今までに見たこともないほど恐ろしいので
既存の復讐ものの映画とは比較できない、ある種 異様とも言えるほどの展開になだれ込んで行きます。
スヒョンが捜査官で、ジュヨンの父親が 定年退職した元刑事という設定なので、
スヒョンが独自の捜査でギョンチョルに辿り着き、しかし、そこで仕留めるのではなく
ギョンチョルにGPSを飲み込ませ、わざと逃がすところがポイント。
いつでも居場所が分かる状態にすることで、スヒョンはギョンチョルを何度も痛めつけるという
見たことのない徹底した復讐を繰り返す!!
ギョンチョルという強烈な悪役キャラがいるのに、本作には他にも悪い奴らが普通に登場してくる。
物語の本筋とは関係ないようなところにまで悪者が登場する展開には、監督の
【この世には悪が充満している】というメッセージがあるような気がした。
‘人間を狩る’ことを主食としているサイコ野郎どもを
捜査官が狩る立場になる面白さ。
その状況を次第に楽しんでいくのが不気味というか
これほどのタマを持った悪役はちょっと見た記憶がない。
圧倒的に有利な状況だったはずのスヒョンとギョンチョルの立場が、
ギョンチョルが真に悪魔的な思考回路を持っているゆえに、
次第に対等な立場になっていく様がジワジワと恐ろしい。
容赦なくギョンチョルを痛めつけながらも逮捕はせず、さらに痛めつけようとするスヒョン自身が
だんだん悪魔的に見えてくる恐ろしさと虚しさ…。
終盤にかけて、徐々にギョンチョルの方が スヒョンを追い詰めて行く展開になってしまうのが
本当に恐ろしい。
スヒョンの復讐のやり方も常軌を逸してくる。
これほど鬼畜なキャラは見たことないが、それを演じ切ったチェ・ミンシクの演技には恐れ入る。
対する イ・ビョンホンは、甘いマスクを活かした 悲しみを体現した演技がさすが!
もちろん彼得意のアクションも復讐劇に活きてます。
法律を無視し、自分自身の思うままに復讐を続けたことで、
再び身内に危険が及んでしまう恐怖。
この 終盤の怒涛の展開で、序盤からすでに既存の作品を超越していた本作の【復讐劇】は
更なる次元に到達。
史上類を見ない徹底した復讐劇を見せておきながら、
それゆえに 犯罪者に反撃の余地を与えてしまい、
その 壮絶な復讐への警鐘が鳴らされることになる。
それでも、愛する者を残虐な手口で奪ったギョンチョルへの復讐の手は緩めないスヒョンが俺は好き。
しかし、
真に狂った者には、どんなに徹底して復讐しても、何をしても
真のダメージは与えられない虚しさ。
他人を犠牲にしてまで己の欲望のままに生きてきたギョンチョルにはそもそも‘人の心’などない。
だから 何をされても、本当の意味での‘痛み’も感じない。
最後まで復讐を貫徹させたスヒョンが好きやけど、だからこそラストシーンには微妙な気持ちになった。
決して間違ったラストシーンではない。むしろ真っ当といえるラストである。
先日久しぶりに観た『完全なる報復』もそうやったけど、
真の悪魔は描けても、
自分自身が悪魔にまでなれる監督さんはまだ居ないんじゃないかと思いました。
【怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。
おまえが長く深淵を覗くならば、
深淵もまた
等しくおまえを見返すのだ。】 ~ニーチェ