【朗読作品】ひンパンジー
久しぶりの作品です。
初回発表:2012年12月23日『オープンマイク Sherpa(シェルパ) Vol.18』@Poem&Gallery Cafe 中庭ノ空
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私はチンパンジー。でも、その辺のチンパンジーとは違うの。
私は言葉をしゃべれるし、書いたり読んだりもできる。訓練されたからね。
そう、私は訓練されたチンパンジー。
猿回しとかで人間に媚びを売って拍手をもらっているチンパンジーとは違うのよ!
それなのに、外見はその辺のチンパンジーどもと変わらないから、人間は平気で私をバカにするわ。
まったく、チンパンジーだってそれぞれ違うっていうのに、「チンパンジー」=「5歳児」とか、ホント頭にくる。
すぐレッテルを貼りたがるところが、人間の悪いところね。
だからね、私はそのへんのチンパンジーと違うってところを、どうしても見せたいの。
チンパンジーの上の動物と言えば、そう!人間よ、人間。
私は人間なら女の子。人間の子供を産めれば、その辺のチンパンジーと違うっていうところを見せられるわ。
そうそう、人間でも最近は誰からも相手されないとかいうかわいそうな人がいるじゃない。
ホームレスっていうの?あれでもチンパンジーよりは上なのよ。
あの人達の子供を産めば、話題になる。話題になれば、お金もたくさん入ってくるわ。
ホームレスからは脱出できるし、私の望みはかなえられる。いいでしょ?
ということは、できるだけ若いコがいいね。
…いたいた。こんなルックスいいのに、何でここにいるんだろう。しょうがないから、アタシがもらうわ。
「ねえ、ちょっとあたしの話を聞かない?」
「チンパンジーだからって、バカにしないでよ!どうせあんたはその日暮らしをしているんでしょ??
住むところもなくて、路上で夜明かししてるんでしょ??
で、誰からも相手にされてないんでしょ?」
「でしょう?本当に人間ってのは、愛とか助け合いとかきれいごとを言いながら、結局は自分が得するかどうかってことしか考えていないんだから。
これじゃ動物と同じね。同情するわ、あなたに。」
「そうそう。そんなどうでもいいあんたでも大切にしてもらえる方法が一つだけあるの。
あたしの子供を産むのよ。
今までチンパンジーと人間の子供なんて、いないでしょ?
そうしたら、世界中の注目を浴びるわ。今まで不可能だって言われていたんだから。
そして大切にされるの。だって、たった1個体しかないんだから。それはそれは、大切にされるわ。
そして、この子の一挙手一投足が、いちいちニュースになるの。取材の申し込みだってひっきりなしに来るわ。
もちろん、お金もたくさん稼げる。この子でね。
そうしたら、ね?アナタもホームレスの生活から脱出だわ。
どう、この話。受けないってことはないよね?だって、あなたは何日かしたらひもじくて死んでしまうかもしれないのよ?
私はあなたを助けようって思って言ってるんだから。
本当は人間のやることだけどね、誰も助けないでしょ。あなたのことを。
『人間らしく』ってみんな言うけど、チンパンジーの私の方が全然人間らしいわよ。その辺の人間なんて、所詮は人間の面をかぶった悪魔なんだから。」
「早く決めてよ!あたし、気持ちよくなりたくてうずうずしてるんだから!今すぐにでもやりたいの!」
数か月後、彼の目の前には、ふっくらしているチンパンジーのおなかがあった。
そして彼女は子供を産んだ。お父さんは人間。お母さんはチンパンジー。
一人増えた家族そろって、我が家へ、足を進めていく…
門の扉が、びっしり埋まった人とカメラ、そしてマイクに変わっていた。
「世界初!人間とチンパンジーの子供。おめでとうございます」
「今の気分は?ご感想は?」
「親族の反対はありませんでしたか?」
「どのように決断されたのですか?」
一家は、人の壁に何度も、何度も押し返されて、なかなか門の扉に手を触れることができない。
でも、怒鳴る気はしない。
嬉しい。嬉しい。今、世間は私を見てくれている。
嬉しい。嬉しい。やっと、私を大切にしてくれる。
その後も新聞やら、週刊誌やら、テレビやら、ラジオやら、国会議員やら、世界中の研究者まで。
取材とか、出演依頼とか、面会とかが、ひっきりなしにやってくる。
おかげでどんどんお金がたまる。
たちまち、ホームレスは土地持ちの主となった。
「ね?チンパンジーの子供を産んで、良かったでしょ?」
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この作品を読んだ後、皆様それぞれ何かしら思うところはあると思います。もやもやした気持ちになる方もいらっしゃることでしょうし、憤りを覚える方もいらっしゃるかもしれません。
その「もやもや」とか「憤り」の真の原因はどこにあるのか、そしてそれはどうしたら解決できるのか、ということは、一人一人が考えていかなければいけない問題だと思います。