◇ラ・ブリュイエールを読むLeçon 3 jeudi 16 avril
Une jolie maison「きれいな家」
Il ne faut quelquefois qu'une jolie maison dont on hérite, qu'un beau cheval ou un joli chien dont on se trouve le maître, qu'une tapisserie, qu'une pendule, pour adoucir une grande douleur, et pour faire moins sentir une grande perte.
ときには、きれいな家を相続しさえすれば、美しい馬や、きれいな犬を飼いさえすれば、タビスリーや、時計を手に入れてみれば、それだけで、心おおきな痛みも和らぐ。大切なものを失ってしまった心のおおきな哀しみも、少し忘れられる。
◎語彙説明・構文のポイント
Il ne faut quelquefois qu'une jolie maison dont on hérite,
il ne faut que A pour 不定詞
「~するためにはAだけが必要だ、 Aだけで十分である」
quelquefois 「時には」
une jolie maison 「きれいな家」
dont on hérite 「相続する」 (hériter de qc 「[遺産など]を相続する」)
qu'un beau cheval ou un joli chien dont on se trouve le maître,
un beau cheval 「美しい、立派な馬」
un joli chien 「きれいな犬」
dont on se trouve le maître(se trouver +名詞句)「偶然に〜になる」
maître 「主人」
qu'une tapisserie, qu'une pendule, pour adoucir une grande douleur, et pour faire moins sentir une grande perte.
tapisserie 「タピスリー、壁掛け」
pendule 「時計」
adoucir 「(痛みや悲しみを) 和らげる、鎮める」
une grande douleur 「大きな痛み」
faire sentir 「~を感じさせる」
moins 「より少なく」
une grande perte 「大きな喪失感」
◎ Explication de texte
痛切な心の傷や、大切な人やものを失ってしまった喪失感が取り上げられているテクストです。ただ、ラ・ブリュイエールの注目しているのは心の痛みや辛さそのものではないようです。
ラ・ブリュイエールは、この文章で人間の感情の移ろいやすさを鋭く観察しています。彼の洞察によると、時として日常生活のごくささいな出来事や物事が、人の心に大きな影響を与えることがあるのです。
大切な人を失った深い悲しみに沈んでいるときでさえ、小さな日常の満足感によって心が和らぐことがある。今回のテクストでは、ラ・ブリュイエールは、そうした人情の機微に鋭い観察を向けているようですね。 テクストの焦点となるのは、「相続するきれいな家屋敷」「美しい馬」「きれいな犬」、そして「タピスリー」「時計」です。これらはすべて、亡くなった故人が残した遺産の相続品のことです。
ラ・ブリュイエールの5つのことばの配列には、巧妙な皮肉が込められていまれています。彼が挙げる例は、大きなものから小さなものへと、意図的に並べらています。
まず、「une jolie maison dont on hérite」 (相続したきれいな家)から始まります。これは明らかに最も価値の高い遺産です。
そうです。次に「un beau cheval ou un joli chien dont on se trouve le maître」(偶然手に入れた立派な馬やきれいな犬)と続きます。注目すべきは、馬や犬の所有が偶然の結果であると示唆されている点です。
最後に「une tapisserie, une pendule」 (タピスリー、時計)で締めくくられます。これらは前述の遺産と比べると、はるかに小さな価値のものです。
一軒の家という大きな遺産であろうと、単なるタピスリーや時計のようなささいなものであろうと、新しく手に入れたものさえあれば、深い悲しみや大きな喪失感は簡単に紛れてしまう。ものの大小にかかわらず、何か新しいものを得れば、人の心は容易に慰められてしまうものなのだと解釈できますね。
ことばの使い方に注目すると、遺産の価値が軽くなるにつれて、修飾語の構造が簡素化されていくことがわかります。
① ≪une jolie maison dont on hérite ≫
→ jolie (形容詞) + dont on hérite(関係節)
② ≪ un beau cheval ou un joli chien dont on se trouve le maître ≫
beau と joli → それぞれに形容詞1つ+ 共通の関係節 dont on se trouve le maître
③≪ une tapisserie, une pendule ≫ → 修飾語なし
遺産の価値が下がり小さなものになると、ことばも短く、簡単なものになります。最後の「タピスリー」と「時計」には、もう形容詞すら付いていません。タピスリーも、時計も本来は少しぜいたく品かもしれませんが、ラ・ブリュイエールの書き方は、ずいぶんとそっけないです。
形容詞の選択も興味深いです。家やペットを指すのにラ・ブリュイエー ルが使っている形容詞はjoliとbeau というごく普通で平凡なものです。 grand (大きな)という形容詞が une grande douleur (大きな苦痛) と une grande perte (大きな喪失)と2度も繰り返して使用されていることにも注目すべきでしょう。
フランス語には多様な形容詞がありますが、なぜラ・ブリュイエールは この繰り返しを選んだのかが興味深いところです。フランス語の作文では同じことばの繰り返しは通常は厳しく忌避されるものです。
人間の心理がそれほど複雑ではないことを示唆したかったからだと考えられます。小さな子どもは泣いても、ものにあやされると、気をそらし、機嫌を直してしまいます。
ラ・ブリュイエールはそうした子どものように幼稚な人間の心理を、からかっているように見えますね。
このテクストでラ・ブリュイエールが皮肉を込めて示しているのは、大人の心に潜む子どものような幼稚さなのかもしれません。
気まぐれで表面的な人間感情の移ろいやすさというテーマは、17世紀の作家たちによく見られました。例えばパスカルも、人間にとってはどんなささいなことでも、人生の最も重要な事柄から目をそらすには十分であり、容易だと述べています。それが人間の虚しさだと。
このテクストでもまた、人の中にある未熟さ、幼稚さが強調されているのです。しかし、ここでの人間への批判の目には、どこか優しさがあることも忘れてはなりません。人間や、その幼さを、ラ・ブリュイエール はどこか大目に見て許しているところがあります。
テクストの穏やかなリズムと美しい諧調の響きにそれを感じることができます。例えば、最後の部分はとても美しい調べです。
≪pour adoucir une grande douleur, et pour faire moins sentir une grande perte ≫.
人はどんなに辛い経験をしても、日常のちょっとした出来事や物事に癒され、辛さを忘れることができますね。ラ・ガブリュイエールの言葉はそのような人の心理を皮肉を込めて述べているように見えますが、その言葉の裏には人の幼さを優しく許す大らかさも感じられるのだそうです。
◎今日の表現:il ne faut que.../ se trouver
1. il ne faut que...
今日のテクストの冒頭に出てきたフランス語の「Il ne faut que...」と いう表現は、「~だけが必要だ、~さえあれば十分だ」という意味です。 あとに pour + 不定詞を伴って、目的を達成するためには、ほんの少しの条件や材料で十分だという場合に使います。
Il ne faut que dix minutes pour arriver à la gare.
駅に着くのに、たった10分しかかからない。
Il ne faut que de la détermination pour réussir.
成功するには決意だけが必要だ。
Il ne faut que quelques ingrédients pour faire ce gâteau.
このケーキを作るのに必要なのは、ほんのいくつかの材料だけです。
2. se trouver
「~が位置している」や「~が存在している」という意味を持つ代名動詞ですが、文脈によっては「偶然に~することになる」というニュアン スを帯びることがあります。自分の意志や計画ではなく、ある状況や場所に偶然に置かれたり、何かを偶然に経験したりすることを示します。
Je me suis trouvé au milieu d'une manifestation.
私は偶然、デモの真ん中にいた。
En me promenant, je me suis trouvé face à face avec un vieux camarade de classe.
散歩していると、偶然、昔のクラスメートと鉢合わせした。
非人称構文でも、同様のニュアンスを表現できます。
ll se trouve que j'avais justement le livre que tu cherchais.
偶然にも、君が探していた本を私がちょうど持っていたんだ。