私が進学した高校は、高校デビューが多かった。
それなりに勉強しないと合格できない高校だったが、入学してみると素晴らしい弾けっぷり。
オレンジレンジがイケナイ太陽で再ブレイクした時に「致死量の平成を浴びた」という表現があった。
まさに致死量の平成。
その真っ只中を10代の私は駆け抜けた。
男子は腰パン、カラコン、ワックスで固めたツンツンヘアー。
女子はカーディガン、めちゃくちゃ短いスカート、ルーズソックス、ギャル風メイク。
私の学年の2割くらいがこういう感じの派手な子。
派手気味な子と合わせると学年の半数。
今なら陽キャと言うのだろう。
私のようにお洒落に興味のない部活馬鹿とは両極端な子がたくさんいた。
2年生の秋、次期生徒会長選挙があった。
立候補者の大半は真面目な子だったがその中に島田君という子がいた。
島田君は中学で番長だったらしく、喧嘩がめちゃくちゃ強いらしい。
そんな噂が流れていたこともあり、島田君は陽キャ軍団から祭り上げられ、軍団の頂点にいた。
選挙戦は島田君を崇拝する“島田軍団”が大騒ぎ。
真面目な子達の必死のアピールは届かなかった。
そして、私たちが3年になると同時に島田君は生徒会長に就任した。
生徒会の役員は島田君の友人で固められていた。
島田君が生徒会長に就任したからといって学校生活に変化はなかった。
政治家のように公約があったわけでもない。
「過ごしやすい学校を作る」と言ったところで生徒の言い分が通るわけでもない。
「ダサい制服を作り直せ」と言ったところで大人の事情もあるだろう。
島田君は生徒会長として毎月生徒会の会議に出席し、学校行事で「生徒会長挨拶」と言われれば壇上で挨拶をする程度だった。
学校生活は淡々と過ぎ、卒業式の日を迎えた。
派手な子たちは一段と派手な格好で登校し、部活馬鹿や真面目組はいつものように登校した。
高校生活最後の日。
卒業式が始まる前から泣き出すギャル。
廊下では写真撮影大会が始まり、陽キャ達が大騒ぎしていた。
卒業式が始まると、さすがに大騒ぎすることはなく式典は粛々と進んだ。
司会を務めた教頭先生が「卒業生答辞」と言うと「はい!」という元気な返事が聞こえた。
立ち上がったのは島田君と島田君の友人の辻本君だった。
2人で壇上に上がると、かなり分厚い紙を手にした島田君が答辞を読み始めた。
1分もしないうちに涙声になった。
「僕は中学時代やんちゃをしていて、親に迷惑をかけていました。」
「どうしようもないヤツで、たくさん迷惑をかけました。お父さん、お母さん、本当にごめんなさい。」
「このままではいけないと思い、気持ちを入れ替えて勉強し●●高校に入学しました。」
「●●高校では300人の同級生と出会い、充実した3年間を過ごすことができました。」
「みんなに支えられ、僕は今日の日を迎えることができたと思います。」
島田君の答辞を聞いて、感動することはできなかった。
卒業生答辞で自身の身の上話を展開し、涙ながらに親に謝ったり感謝の気持ちを伝え、最後にはみんなのおかげで充実した3年間を過ごせたと…
なんともツッコミどころ満載な答辞だったが、もらい泣き続出。
私の隣の子はハンカチで顔を覆いながら泣いていた。
前の子も肩をゆすりながら泣いていた。
私は泣きもせず、脳内で島田君が言った言葉1つ1つを噛みしめ、何が言いたかったのか考えていた。
在校生から見れば涙している卒業生の中で考え込むようなしぐさを見せる私が異様な存在に思えただろう。
とにかく疑問だらけの答辞だった。
最大の疑問は辻本君。
ほとんど話す出番もなく島田君の横で泣くだけ。
なぜ壇上に出たのか分からない。
答辞を読み終えると2人は涙をぬぐいながら席に戻った。
卒業式以降、島田君と会うことはなかった。
高校を卒業して10年が経った頃、島田君の発案で同窓会を開くという連絡があった。
LINEグループが作られ、私にも招待の連絡が届いた。
同級生300人のうち、グループに加入したのは200人以上。
同窓会の2ヶ月前、島田君が同窓会の概要を連絡してきた。
時間は土曜日のお昼。
会場は高校の近くのホテル。
最後に「僕の人生の中で1番楽しい時を過ごしたみんなと楽しい時間を共有したいと思います!ぜひご参加ください!」と書かれていた。
なんと自分本位な…私は地元を離れていたので参加できないため不参加と返信した。
後日、同窓会の写真が送られてきた。
そこには約50人の同窓生と恩師たちが写っていた。
集合写真の最上段の真ん中には島田君がいた。
よく見ると参加者のほとんどが島田君と仲が良かった子、もしくは派手だった子。
仲間内の集まりのようだった。
先日、島田君が同窓会のグループラインに投稿してきた。
その中に「節目の年。みんなに会いたいです。」と一言書かれていた。
一体、何の節目なのか島田君に聞いてみたい。
そのためだけに地元へ帰ってみるのも面白いかもしれない。