幹部会の帰りのことだった。真島と峯は、神室町のバー・バンダムで、カウンターに座りながら、ウィスキーを飲んでいた。
「お~い、もう一杯くれや」
真島は、目の前のマスターにグラスを差し出し、峯に寄りかかった。真島の鼻腔を爽やかな香りがくすぐる。
「真島さん、もう飲みすぎなのでは?」
峯がチラリと顔を赤らめた真島を見る。
「今日は特別や。それにしても酔うてしもたわ。オマエ、最近、女のほうはどないやねん?」
真島は峯の顔を覗き込む。
「別に何もありませんよ」
「そやった。オマエんとこ、秘書のええオンナがおるのぉ。アイツと付き合うたらええやないか?」
峯は、両手を顔の前で組んで、呆れたかのようのにため息をついた。カラン……と、グラスの中で氷が踊る。
「……秘書の片瀬ですか?」
「片瀬チャンゆうんか」
真島はニヤニヤして目を細めた。
「私と片瀬は仕事上の関係です。それを壊すつもりはありません」
真島は、ハァとため息をつく。
「なんでそないに堅物やねん!ええから携帯かせ!」
「は?なぜです?」
峯の眉がピクリと動く。 真島は峯のズボンを強引に引っ張っている。
「ええから貸せや!」
「真島さん、勘弁して下さい」
峯は、真島の手を払うと、煙草に火を点け、真島をジロリと見た。
「分かったでぇ、峯チャン。ここの酒を先に飲んだほうが勝ちや。俺が勝ったら携帯を貸す。それでええな?」
「ハァ……。貴方には負けましたよ」
二人の前に、グラスいっぱいのウィスキーが置かれた。真島の合図で、二人は一気に飲み干した。 僅かな差で、真島が先にグラスをテーブルに勢いよく置いた。
「よっしゃあ!俺の勝ちや、峯チャン」
「ほんなら、携帯、はよ貸せや」
峯は眉間にシワを寄せたまま、諦めたかのように、ズボンのポケットから携帯を取り出した。そして、渋々と片瀬の番号を見せた。
「よしよし。いくで~!俺がキューピッドになったるからな~」
プルルル。
「おう、片瀬チャンか?真島やけどなあ、大好きやでぇ」
「あ、しもた……」
「真島さん、何をしているんですか……」