1月4日、朝。

火葬のために、サンちゃんを連れて家を出た。
サンちゃんが入ってる発砲スチロールの箱は軽いけど、
何せ大きいもので、すぐに腕が疲れる。
何度も立ち止まっては、ひと休み。

このペースじゃ時間がかかりそう…と思ったのも束の間、
これもサンちゃんと過ごせる最後の時間と気づく。

ゆっくり行こうね。

車を出していただいた友達のお母様と合流。
火葬施設まで連れて行っていただいた。

受付を済ませる。
職員の方の「今日は混んでるから、時間かかりますよ。何せその状態ですから」
の言葉に、え?と振り向くと、
毛布にくるまれた大きなワンちゃんが目に入った。
ほとんどの子が箱に入れられていたから、すぐにはわからなかった。
そこには、お正月の間に亡くなった子たちが、ずらりと並んでいた。

15時頃にまた来てください、と言われた。
友達のお母様に、ゆっくりお別れしていらっしゃい、と言っていただき、
箱のふたを開けて、サンちゃんとお別れをする。

眠っているようにきれいな顔。
病院で用意されたタオルだけじゃ寂しいだろうと、私の服を上にかけてある。
女の子だから、明るい色にした。
ここでお骨にしてもらって、帰ろうね。
そしたらもう、ずっとおうちで一緒だからね。

そこには私の他に、年配のご夫婦がいらした。
今、お釜に入っているワンちゃんの飼い主さんだった。
お話をしていると、ワンちゃんがお骨になって戻ってきた。
お二人は、愛おしそうにお骨を拾い、
骨壺を大切に抱きしめて、会釈して帰って行かれた。

可愛がっていたんだろうな。
ここにいる子たち、みんな可愛がられていたんだろうな。
送られる子たちと、送る飼い主さんたちの気持ちが、
その場に立ち込めている気がした。
それはとても哀しい気持ちだけど、それでも紛れもなく、愛だった。
切なくて、暖かかった。

15時頃に戻ってみると、もうすぐサンちゃんの番だった。
ご好意に甘えて、車で待つことにする。
と、晴れていた空を、にわかに黒い雲が覆った。
フロントガラスに、雨粒が落ちる。
すぐ向こうには青空が見えているのに、ここだけ…?

待っているうちにも車が何台かやって来ては、
飼い主さんたちが小さな骨壺を抱えて帰って行く。
小雨の中、様子を見に行くと、
サンちゃんはもうお釜に入っていた。

「猫ちゃんの涙雨ね。お釜に入る時、哀しかったのね」
友達のお母様が言った。

陽も暮れる頃、職員の方が「そろそろですよ」と知らせに来てくれた。
車を降りて待っていると、お骨になったサンちゃんが運ばれてきた。
ゆっくり、ひとつずつお骨を拾う。
骨壺に全部入りきらなそうで困っていたら、
職員の方が手を貸してくれた。
最後に頭の骨を納めて、これで、と思ったら
「あ、これ爪ですよ」
と、職員の方が小さな欠片を指差した。
よく見ると、確かに見慣れたサンちゃんの爪だった。
ごめんね。置いて行っちゃだめだよね。
もう、この爪で引っ掻かれることもないんだね。

帰る頃、雨は止んでいた。
本当に、サンちゃんがお釜に入ってる間だけ降っていたみたい。
すべての力を出しきって、天国に行ったと思ったけど、
そっか、サンちゃん。
悔しいか。

だったら、また生まれておいで。
そして、必ず私のところに戻っておいで。
そしてまた、一緒に暮らそう。


サンのために泣いてくれた皆様。
火葬に手を貸してくれた友達とお母様。
本当にありがとうございましたm(__)m


今日はライヴだというのに、行けなくてごめんね。
お祝いの気持ちだけは、どうか届いていますように。

去年、プロディのライヴでJimmyが歌った曲。
「俺が歩いてきた道」
みたいな歌詞だったかな?
それを聞いた時、何だか泣けてきちゃった。
私、その道の半分を見てきてるんだね。

あっという間のようにも思えるけど、
色んなことがあった。

お誕生日おめでとう。
これからもついて行くよ。
大好き!


もう15歳。
10歳を越えた頃から、覚悟はしなきゃ、と思ってた。

様子がおかしい、と思ったのは大晦日。
ぐったりして、目に光がない。
これまで猫は何匹も見送ってきたので、
目を見れば何となくわかるようになっている。

もう、寿命だね。
そう思って、このまま家で看取ろうと思った。

でも、サンちゃんは頑張っていた。
ふらふらの足どりで、水を飲みに歩いた。
歩けなくなっても、動こうとしていた。

まだ、生きたいんだね?

そう感じて、病院に連れて行った。
サンちゃんは、すぐに処置室に連れて行かれて、長い時間待った。
シュウくんの時は、すぐに呼ばれたから、
ひょっとしたら助かるのかもしれないと思いながら待っていた。

一度呼ばれて、今の状態を説明される。
一度心臓が止まったが、蘇生した。
脱水がひどく、血圧が低下していて採血できないので、
詳しいことはまだわからないと言われた。

再度、廊下で待つ。
「来てください。…もう、難しいと思われます」
案内された先には、ぐったりしたサンちゃんがいた。
口から管を入れられ、体中にいろんなものが取り付けられている。
その姿があまりに可哀想で、
こんな目に遇わせるなら家で静かに死なせてあげた方がよかったのかもしれないと思った。

器具を取り付けられた手を持って
「サンちゃん」と呼びかけた。
何度も、何度も。

管を入れるために開かされたままの口からのぞく舌が動いた。
取り付けられた器具を嫌がるように足が動く。
「今、心臓も呼吸も止まっています。なぜ動けるのかわかりません」
院長先生が言う。

そのうち、私にはわからない専門用語が飛び交い始めた。
「〇〇上昇」
「△△も上がってます」
次の言葉は、私にも理解できた。
「心拍正常です!」
院長先生が驚いたように言った。
「奇跡ですよ、これは…!」
ずっと処置をしていてくれた若い女性の看護士さんも
「サンちゃんていうんですか?凄い子ですね!」
と笑顔を見せてくれた。

サンちゃんの意識も戻り、再び処置室を離れて説明を受ける。
「サンちゃんの呼吸は、15分止まりました。それから回復したケースは初めてです。よくドラマであるようなシーンそのものですよ。僕にも全くわかりません」
「呼びかけが効いたのかな…。サンちゃん、て。家に帰りたいのかもしれませんね」

血圧が戻ったので採血したところ、糖尿の疑いがあること。
蘇生のため胸部を押したので、
肺か肋骨にダメージを受けているであろうこと。
説明を受けているうち、サンちゃんの容態は急変した。

心臓も動いているし、自分で呼吸もできている。
でも、意識が戻らない。
先生たちも、何度も呼びかけてくれる。
「サンちゃん」
「サン!」
「頑張れる子でしょう?」
「ほら、さっきの猫パンチはどした、も一回してみろ」
みんなでお耳を触ったり、つついてみたり。
心臓と呼吸が正常なので、さっきより和やかな雰囲気。
でも、何度かサンちゃんをつついた後、先生が言った。
「さっき、15分呼吸が止まったことが、脳に影響を及ぼしている可能性はあります。もしかしたら、このまま植物状態になることも、考えられなくはありません」

そのまましばらく処置を続けてもらったけれど、
サンちゃんは目を覚まさなかった。
私の体力も限界で、頭痛が酷くなってきた。
先生に「どうしますか」と聞かれたのを合図に、連れて帰ることにした。
宿直がいる病院ではないので、
入院させても夜中に容態が急変した場合は対応できないと説明を受けていた。
ひとりぼっちで亡くなるかもしれないことを考えたら、
家で看取ってあげるのもこの子のためですよ、と言われてもいた。

サンちゃん、もう帰ろう。
おうちに、帰ろう。

夜遅くまで頑張って下さった先生たちにお礼を言って、
意識が戻らないままのサンちゃんを抱っこして家に戻った。

サンちゃんは、そのまま永遠の眠りについた。
安らかな顔。
頑張ったね。
もう苦しくないね。

15年前、私が留守の間に生まれたサンちゃん。
うっかり脱ぎ捨てたままだったジャケットの裏地が真っ赤になってて、
兄弟と一緒にみいみい鳴いていたっけ。
名前は太陽の「SUN」から付けた。

子猫の頃から、触られるのが大嫌いで、
抱っこなんてもってのほかだったね。
たまに膝に乗ってきた時に撫で撫ですると
「触らないでよ!膝に乗ってやっただけでもありがたく思いなさいよ!」
と言わんばかりに、猫パンチをお見舞いされたっけ。

それでもシュウくんが亡くなってからは、
抱っこさせてくれるようになった。
膝に乗せると、ごろごろ喉を鳴らすようになった。
「サンちゃん本当は甘えんぼなんだね煜」と言うと
「フンDASH!」て顔をされたけど。

せめて最期は、抱っこしていてあげたくて、
病院に連れて行く前に、何度か膝に乗せたけど、
サンちゃんはきっぱりと拒否した。
しばらくはおとなしくしていてくれたけど、
ふらふらの足どりで、自分の寝床に戻っていった。

その姿が、何ともサンちゃんらしかった。
甘えん坊ではなかったサンちゃんは、
愛猫と言うよりも同居猫という感じだった。
「起きなさいよ。餌がないわよ」
「寒いから、早くエアコンつけて」
いつも文句をいうように鳴いてたね。
でも、私が落ち込んでると
「仕方ないわね。少しだけ抱っこしてもいいわよ」
と言うように、そばにいてくれた。
昨日、あんなに頑張ってくれたのも、
「こんな飼い主、置いて行けないわ」
って思ってくれたのかもしれないね。

15年も、一緒にいてくれてありがとう。
もう抱っこはできなくなっても、これからも一緒だよね。
嫌じゃなかったら、生まれ変わって、戻っておいで。