なんか遠いような近いようなところで
誰かががやがや話しているぞ?
ん? 今、私のこと呼んだ?

「ふぁ~い(はい)」

と、言ったような言ってないような・・・

「終わりましたよ、今、お部屋に移動していますからね」

そんな感じのことが聞こえてきたが
麻酔が覚めかけている状態は
自分の置かれた状況が瞬時にはわからなく
何を言っているんだ?
何のこっちゃ?
てか、私どうなってんの?
そんな混乱状態のあと
少しずつ思い出して(覚めて)きて
ようやく自分の置かれた状況を理解

術後の様子を見るため
ICUにつながっている個室のようなところに寝かされていたようだ
意識的には少し覚めてきていたが
身体はまだ覚め切っていないため
話をしようにも、もごもごしているだけであまり言葉になっていなかったようだ

夫と妹の顔が見えたような記憶はある
なんかニコニコして喜んでいるようだ
何とか生還したんだな


何時間か養生したあと
自分の病室へ移動し
その晩は当然のことながら食事は無く
ひたすら上を向いて寝ているだけ

これが地獄の始まり・・・

麻酔が切れてくるとさすがに身体は痛みを感じ始める
痛いので動かない
両側同時に手術しているため
どちらかのサイドが楽、ということがない
身体をほんの少しでも傾けようものなら
激痛が走る

とにかくじっと、じっと、じぃーーーっとしているしかない

生まれて此の方
これほど何もしないでひたすら上だけしか向けず寝たことがあったろうか

ない
絶対ない
あるわけない
できるわけもない

ある意味これは拷問だ

人間、寝るときはどんなに意識が深く落ちて熟睡状態だったとしても
無意識にいろいろな部位をちょっとずつ動かしている
だから気持ちよく寝られるわけなのだが
拘束状態で長時間耐えなければならないのは
もう拷問のほかない

ほんのわずかでいいから
片側に加重できたらどんなに幸せか
その欲望に駆られて無意識のうちに身体が動こうとすると
とんでもない痛みで覚醒させられる

看護師さんが何度も様子を見に来てくれ
「痛いね、退屈だね、動きたいね、辛いね、がんばろうね」
などと優しくいろいろ言葉をかけてくれるのだが
ついつい心の中で
(やってみろ~この状態!)
と悪態をついてしまう

また麻酔の影響もあるのか
とにかく口が乾いてたまらない
でもお水も飲ませてもらえないので
耐えるしかない

さらには もともと腰が悪く
ただでさえ仰向けに寝るのが苦痛なので
いつもだいたい横向きで寝ることが多い
慣れない病院のベッド
ずっと仰向けに寝ていて
手術した痛みのほか
腰と背中の痛みが
これまた想像以上にキツイ

せめて腰の隙間にタオルか何かをかませられたら、と
様子を見に来てくれる看護師さんに
何度か頼んでみるのだが
麻酔の残りの影響か
夜になってももごもごしてはっきり喋れず
言いたいことが伝わらない

やっと何とか伝わったと思ったら
ものすごく厚いタオルを入れられて
逆に持ち上げられすぎて痛かったり

背中がむず痒くてもかけない
何とか看護師さんに伝えると
ベッドと背中の間に少しずつ優しく手を差し込んでくれるのだが
ピンポイントの痒い箇所にはなかなか、というかほぼ到達できない
動かせないから、というのと
上手くしゃべれず伝えられないから
これまた我慢するしかない

とにかく朝までずっとこの調子で
ほとんど寝ることもできず
痛いわ 辛いわ 乾くわ むずむずするわ 苦しいわ・・・

窓の外が白んできて
やっと朝が来たことをよろこんでみても
この状態が変わるわけでもなく
ただ時が倍速で流れてくれないかと願いながら過ごすのみ

朝ごはん時間の頃
ようやく看護師さんがベッドを少し起こして角度を付けてくれ
お水を飲ませてもらうことができた

こうして地獄の一夜が明け
正真正銘、生還を実感したのだった


そして心に決めたことが一つ

『乳房再建あきらめた!』

再建方法はいろいろあるようが
いずれにせよ当然手術するわけだから
またこの状態を乗り越えなければならない

無理・・・

あんなに楽しみにしていた憧れの巨乳化計画は
この一夜で見事なほどの角度を付けて心折れ
あっさり断念いたしました