私の手元にあるこの箪笥、120年経っている。
祖母の嫁入り道具である。庄屋の娘である母方の祖母が家紋入りで持ってきたものである。
幼い頃、一度行ったことのある祖母の生家は、敷地内に線路があり、玄関の前に立つと、見える所は、全て、自分の土地だと言われた。座敷に、グランドピアノがあり、驚いた記憶がある。
しかし、騙されやすい祖父は、甲斐性がなく、没落したらしい。5人兄妹の末っ子だった母が嫁ぐ時には、支度することも大変だったらしい。母の姉たちは、しっかり支度してもらったらしいが、戦後すぐだったこともあり、祖母が持ってきた箪笥を持たされたそうである。それなりの👘着物は持ってきたらしいが、私が6歳の時に亡くなった母の薬代になったらしく、この箪笥だけが残っている。
今の若い人達には、想像もつかない時代だったのだろう。私の後は、どうしたものか考えてしまう。
祖母も、母の事も遠い記憶の中になってしまったが、この箪笥だけは、全てを見守ってきたと思うと、感慨深いものがある。
