映画『ゼロ・グラビティ』 | ビッグマックはもういらない

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今年はじめての映画は1月3日に見た話題作の『ゼロ・グラビティ』です。
友達のFacebookへの書き込みもあってIMAXで見ようと探してみると最も近いところが109シネマズ箕面だったので、朝10:10の回に間に合うように車を飛ばしました。

ふざけているみたいに聞こえるかもしれませんが、この作品は今年ナンバーワンです。
もちろんこの映画が今年最初に見た映画なのでナンバーワンは当たり前だし、あと11か月もあるのに何をいうと言われそうですが、これまでの映画とは桁外れの大傑作であると言い切ります。

ブルーレイディスクと大型高画質テレビに加え、パソコン画面でネット配信されるなど、わざわざ劇場まで足を運ばなくても映画を鑑賞できるようになった現在、劇場で、しかも3Dで見るべき究極の作品と言えます。もっというと3Dで見なければ意味がないとも言える作品です。
この映画は「見る」というよりも「体験する」と言った方がいいのかもしれません。

まず、技術的な話からはじめてみます。
これまでの宇宙ものの映画では「無重力」の表現が不完全なものがほとんどであるなか、この作品は無重力について徹底してリアリズムを追求しています。
ロン・ハワード監督の映画『アポロ13』(1995年)では「実際にNASAが訓練に用いる航空機KC-135の内部にアポロ船内のセットを作り、下向き45度で自由落下させ、最大22秒間程度、0.01gの微小重力状態を作り出す方法」(大口孝之「映画における無重力表現の難しさ」より)で実に600回近く飛行しているそうです。
それでも『アポロ13』では無重力のシーンは6分程度しかないそうで、今回の90分のシーンを映像化するために新しい手法を考える必要がありました。
観客が20秒程度の編集された映像を見ると、視点が変わってしまうことや、カットとカットの間に時間の省略があるかもしれないと思ってしまいます。すると観客は「映像を見ている」ことを自覚します。息詰るシーンを「体験する」ためにもできるだけ長いショットで撮りたいと監督のアルフォンソ・キュアロンは考えたのです。
そのため、撮影監督のエマニュエル・ルベツキや特撮を担当するブレーンたちと新しい撮影方法を模索し、これまでにないシームレスなロングショットを実現しています。
映画はじまってすぐに13分超えのロングショットにはじまり、息詰るシーンが続きます。
それも、これどうやって撮ったんやろ、の連続です。

宇宙にはGL(グランドライン:地盤面)つまり基準になる平面がありません。そのためこの映画ではカメラが固定されることなく漂っています。上下左右という感覚がないのです。ずっとふわふわとしたゼロ・グラビティ(無重力)のなかにいることを自覚し続けられるように撮られています。

また、映画の最初にテロップで書かれている通り、空気がないので音が伝わることはありません。隕石が猛スピードで近づいて来ても、爆発が起きても、聞こえるのは宇宙服のなかの自分の呼吸音だけです。そういう静寂をうまく表現しています。
そのひとつの表現として「無音の音」を出しているシーンがあります。ありますと断言してしまいましたが、多分無音を出しているであろうと思われるシーンがあると言われています。技術的には暗騒音の逆位相の波形を出して打ち消しているらしいのです。

特撮の話に戻ると、この映画の特撮の方法がこれまでの映画と違うのは、撮影が後になったというところです。
これまでの映画の場合、撮影された映像にCG処理を加えていました。
『ゼロ・グラビティ』は、無重力の状況を徹底的にシミュレーションした映像に合わせて後で撮影しています。
そういう意味では、後に映画史に残る作品となると思います。
1993年に発表されたスティーヴン・スピルバーグ監督作品『ジュラシック・パーク』でははじめてポストプロダクションが撮影日数を上回る作品ですが、20年後の2013年にまた新たな転換点となる作品が登場したと言えます。

ストーリーについて今回は少しだけにしておきます。
宇宙ものの映画なのでSF映画っぽいですが、この映画はSF映画と言うよりはパニック映画あるいは漂流ものです。
ものすごく大雑把にいうと、宇宙空間を舞台に一人の女性が逆境に立ち向かい克服しようとする物語といえます。
この物語の設定において、『2001年宇宙の旅』と『エイリアン』の第1作目を無視できません。
ですので、両作品に対して敬意を表するシーンが多く出てきます。
特に『2001年宇宙の旅』のオマージュと思われるシーンは数多く見られます。
漂うペンが何度か出てくるとか、胎児のイメージだったり、サンドラ・ブロックの意匠が『エイリアン』のリプリーそっくりだったり、そういうシーンを発見するのも楽しみ方のひとつかもしれません。

と、今回は感想文というより、なんとも拙いおすすめ映画紹介文みたいになってしまいました。

感想文はまた改めてと思います。



gravity