「はい」

渉を見ることはできなかった。

涙で顔がぐしゃぐしゃで

こんなふうに終わるなんて

渉の言葉が心の奥まで刺さったまま
抜けない

車を降りて、
足元に転がる旅行バッグに顔を埋めて泣いた

保険、かけとけばいいよ。
[僕はここで待ってるから]

「西条さん」

口に出して呼んだら頭に手を置かれた。

[なに泣いてんの?]

しゃがみこんで目線を合わせた
優しい笑顔が目の前にある

「西条さん、あたしもうだめなんだって」

[まいったな、マジで来たのかよ]

「えっ?」

杏奈は目を丸くして彼を見上げる。

[僕が待ってるって言ったのは、お客さんとしていつでも迎えるよってことだったんだけどな]

「じゃあ好きとか言って、キスしたのは」

[あんなの、誰にでもする]

[杏奈はかわいいし、彼氏がいるって言ってたから安心した。]

どーゆうこと?

[じゃなきゃ怖くて障害者にあんなことできないでしょ。

何が楽しくて障害者と付き合うんだよ。

本気になられたらたまんないよ

なかったことにしてよあれは]

「…そんな」

ひどい

止まっていた涙がまた頰を伝う

ボコッ


ザザッと音がして

次に顔を上げた時、

西条京也が歩道に倒れて
くちびるから血を出している

[痛ぇな!何度も何度も、
何すんだよてめぇ]

杏奈の頭の上をまたぐように長い足が見える

【それ以上こいつに何か言ってみろ
病院送りにしてやるから】

渉…さん?

怖くてうしろを見られない

けど、
渉さんの声

【おい、行くぞ】

は?

あたし?

「あたし、行かない」

杏奈は呆然としたまま、

動けない