先日、FENDER JAPANのストラトキャスター ST-33R を購入しましたので、インプレッションします。

 

1.購入動機

 私がメインで使っているギターはフジゲンのNCST-M10Mというミディアムスケールのストラトです。ネック長が短くなったことによる演奏性の良さと、メイプル指板特有の透明感のある音がお気に入りです。が、最近は専らローズ指板の音を好むようになりました。そんなことから、ミディアムスケール、ローズ指板仕様のストラトがほしいと思うようになったのです。

 

 しかし、ミディアムスケールのストラトキャスター自体、そう多く売られていません。細部の仕様についてこだわれば、購入までたどり着くハードルは高くなることでしょう。以前、購入したSquier Cycloneは“実質ミディアムスケールのストラト”として購入した経緯がありますが、ストラトとして使うには納得のいくものではありませんでした。当たり前ですが、全くの別物なのです。

 

 そう、私にとって”ストラトキャスター”は替えの効かないギターであり、カラーは黒い必要があったのです。私の憧れのギタリストは皆、黒いストラトを使っていましたから。そんな中、偶然に見かけたのが、ST-33Rでした。

 

2.スペック

■FENDER JAPAN ST-33R

 ・ボディ:バスウッド

 ・ネック:メイプル

 ・指板:ローズウッド

 ・スケール:ミディアム

 ・ペグ:ロトマチック(GOTOH製)

 ・ブリッジ:シンクロナイズドトレモロ(6点支持)

 ・ピックアップ:オリジナルシングルコイル

 

 スペックは上記の通り。ミディアムスケール以外、変わった点はありません。また、ミディアムスケールのストラトというと、他に有名なものでFENDER STMシリーズ、エアロダインシリーズ、現行のフジゲンカスタムハウスのスポット生産品があります。これらは、ネックスケールに合わせてボディがダウンサイジングされていたり、ヒールカットされていたりしますが、ST-33Rについてはボディは標準仕様・標準サイズとなっています。

 

 また、フレットは幅が細いタイプです。現行のギターではあまり見なくなった仕様ですね。ミディアムスケールは指板の弾きしろ(押弦可能範囲)が狭いです。そのため、幅広タイプのフレットだと、さらに弾きしろが少なくなり、ハイポジションでは弾きにくくなってしまいます。ミディアムスケールにおいては細いフレットの方が演奏性が高いです。

 

 余談ですが、島村楽器ブランドのcoolz(フジゲンOEM)から、ミディアムスケール仕様のストラトが販売されていたことがありました。このギターのフレットは背が低い、幅広タイプでした。演奏性云々よりも、音がボケたような丸い音像であまり好みではありませんでしたね。このギターだけでなく、幅広タイプのフレットのギターは、そういった傾向を感じることが多く、苦手意識があったります。

 

 

 ST-33Rのトレモロブロックは薄い亜鉛ダイカスト製で、配線材はビニール皮膜です。ピックガードを開けてないのでアセンブリ一式の素性は分かりませんが、電装系については定価なりのスペックではないでしょうか。

 

3.ジャパン・ヴィンテージ

 ST-33Rは80年代のフジゲン工場製造で、市場でジャパン・ヴィンテージと呼ばれているギターになります。最近のヴィンテージの定義解釈は「製造から30年以上経過しており、中古販売価格が定価よりも上回っているもの」なんて話を聞きました。ST-33シリーズは定価が33,000円で、数年前まで中古の相場が20,000円~30,000円でしたが、現在は40,000〜50,000円となっています。

 

 この年代の国産ギターは近年、軒並み中古販売価格が高騰しています。グレードの一番低いST-33シリーズですら値上がりしていますから、想像に難くないと思います。そう遠くない未来、現存する80年代製造の国産中古ギターは、その殆どがヴィンテージと呼ばれ、この言葉は形骸化してしまうように思います。

 

 人は“モノ”に社会的な付加価値(プレミア)がついてしまうと、それが自分にとっても価値のあるものだと思い込んでしまう心理が働きます。そして、“モノ”を手に入れた後には「授かり効果」といって、自分が所有するものを高く評価してしまうバイアスがかかる傾向があります。

 

 つまり、プレミアのついた商品は買ったり、保有したりする際、自身の意思が介在しにくくなるものなのです。これは正常な判断で売買が出来ていないことを意味します。そのため、“ジャパン・ヴィンテージ”というバロメータが購入の判断材料になってしまうのは、あまりよくない風潮であると危惧しています。

 

 なぜ、こんな話をするのかというと、購入したST-33Rの品質が値段の割に結構イケていたため、次章のレビューによって「昔のギターは、安くて品質が良い」と安易に誤解されてしまうのは良くないなと思ったからです。前述でお話した通り、この年代の国産ギターは軒並み価格が高騰しています。良いものも、そうでないもの も一緒くたんにです。そのため、ギターの価値とは “自分の物差しでしか確かめられない”ことを念頭に置き、ご注意いただきたく。

 

4.レビュー

 まず、音質ですが、サステインがしっかりあり、倍音も豊富でキレイに分離します。帯域毎の音量バランスもいいです。廉価帯のギターは、サステインに乏しい、倍音が少ない、歪ませると団子になる等の傾向があり、それが弾きにくさや、音作りのしにくさを生じさせますが、ST-33Rにはそういった傾向を全く感じさせず、非常に扱いやすい印象です。優等生的なキャラクターですが、これがFENDERトーンかと言われると、微妙なところです。FENDER特有の中音域の暴れを殆ど感じません。

 

 木工についても、変なズレ、隙間、バリがなく、しっかり作られています。特に指板側面のエッジ処理は丁寧で、演奏時に角を感じにくく、なめらかです。ネックに関してはメインで使用している現行フジゲンのストラトよりも好印象です。FENDERらしさ抜きにすれば、このクオリティのギターが当時33,000円で買えていたのは、中々コスパ良好ではないでしょうか。


 素の状態でも既に音が良いので、改造する場合も標準グレード仕様にするくらいにとどめ、素材を活かす方向で調整したほうが良さそうです。



おしまい☆