スマートフォンやタブレットが当たり前のように家庭に普及した今、幼いお子さんが画面をタッチしたりスワイプしたりする姿は、もはや珍しくない光景になりました。
操作が直感的で、子どもが一人でも楽しめる。保護者の方にとっても、家事の合間などに助かる場面があるのは確かです。
しかし、私がさまざまな受験段階の指導経験を経て小学校受験の現場に携わるようになって、あらためて強く感じることがあります。それは、幼児期にしか育てられない力が、画面の外にあるということです。
タッチとスワイプでは育たないもの
スマホやタブレットの操作は、基本的に「平面」の世界です。画面を指でなぞる動作は、確かに指先を使いますが、その動きは非常に限定的です。
一方、積み木を積む、ブロックをはめる、折り紙を折るといった遊びは、まったく異なる身体的・認知的な経験をもたらします。
手の力加減、素材の感触、重さや硬さの違い、空間の中でのバランス感覚――これらはすべて、画面操作では得られない情報です。幼児の脳は、こうした全身の感覚を通じた経験によって発達します。指先の巧緻性(細かい動きの精度と柔軟性)も、実際にものを手で扱う遊びを通じてこそ育まれます。
小学校受験との深いつながり
小学校受験のペーパー問題には、「図形の合成・分解」「積み木の数」「展開図」など、空間認識力を問う問題が数多く出題されます。
これらの問題を解く力は、問題を繰り返し解くことでは十分に育ちません。実際に積み木を積んだり崩したり、折り紙で形をつくったりという体験の積み重ねが、空間を「感覚で理解する力」の土台になっているからです。
また、巧緻性を問う課題(ひもを結ぶ、はさみで切る、折り紙を折るなど)は、多くの私立小学校の考査に含まれています。これも、日常的な手を使う遊びなしには身につかない力です。
ペーパー対策の前に、あるいはペーパー対策と並行して、こうした遊びの時間を意識的に確保することが、結果として受験準備の質を高めることにつながります。
おすすめの遊び・教材
① 積み木 シンプルな形の積み木は、空間認識力を育てる最良の教材です。何歳になっても飽きずに楽しめ、複雑な構造に挑戦するなかで論理的思考も育まれます。
② レゴ・ブロック 指先の巧緻性と、設計通りに組み立てる計画力を同時に育てます。「こういうものをつくりたい」という目的意識をもって取り組む姿勢も養われます。
③ 折り紙 手順を記憶しながら丁寧に折る作業は、集中力・手順理解・図形感覚をまとめて鍛えます。受験でも頻出の「展開図」の感覚は、折り紙体験と深く結びついています。
④ ねんど・工作 素材の感触を楽しみながら、立体をつくる経験ができます。正解のない自由な造形は、創造力とともに「試行錯誤する力」も育てます。
保護者の方へ――「一緒にやる」ことの意味
これらの遊びの効果を高めるうえで、もう一つ大切なことがあります。それは、保護者の方が一緒に関わることです。
タブレットが子どもを一人で占領できるのに対し、積み木や折り紙は「一緒につくる」「どうすればうまくいくか考える」という対話の場になります。
「ここが崩れちゃったね。どうしたら安定するかな?」 「この形、どこを折ったらできると思う?」
こうした何気ない会話が、思考力と言語力を同時に育てます。受験準備に限らず、幼児期の知的発達にとって、大人との「対話しながらの遊び」は非常に大きな意味をもちます。
画面を「ゼロ」にする必要はない
誤解のないようにお伝えしておくと、スマホやタブレットそのものを否定したいわけではありません。使い方次第で有益なコンテンツも多くあります。
ただ、画面の前にいる時間が、手を動かして遊ぶ時間を圧迫していないか、一度振り返ってみていただけたらと思います。
幼児期は、二度と戻らない「身体で学ぶ時間」です。その時間を豊かにする遊びが、受験はもちろん、その先の長い学びの土台を確かなものにしてくれます。
