(schonbielhutte 2694m-Stafel 2199m-Schwarzsee 2583 m- HornliHutte 3260m)
高度のためかそれとも寝袋シーツのせいか、夜中に何度か目が覚めた。
そして、何度目かに目が覚めた時に窓の外を見るとピンクになっていた。
おお!朝だ!
と起きて外に向かった。一緒の部屋の人たちは、まだみんな寝静まっているようだ。
それにしてもやはりこんなとこまで来る方々だけあって、こういうところのマナーはみんなきちんとしている。
誰一人騒ぐ人もいないし、私たちが先に寝ていたのだが、みんなとても静かに行動し、物音もみんなほとんど立てない。
みんなこういうところに慣れているのだ。
ちなみに今回の宿泊客は、まずあの1人で今日チューリッヒからやってきたおじさん。それから学生らしき2人組。アメリカ人ご夫婦。アメリカ人?おねーちゃん。英語が得意ではない感じのおじさん一人。私たち2人。
私の予想に反してイギリス人はいなかった。
外に出るとピンクの世界で、周りの氷河やいつもと形の違うマッターホルンが輝いている。
なんだかこの角度から見るマッターホルンが気に入ってしまった。
それから氷河をはさんで隣にある山。何と言う山か知らないが、とても美しかった。
この朝の一瞬しか体験できないこの景色。
やはりこれがあるから山小屋泊まりはやめられない。
もちろん昼間に見る山も素敵であるが、山の中に泊まらないと、この山が一番輝く時間を体験することができない。
こんな大自然のドラマが繰り広げられている時もあいつはぐーすか寝ている。
日本だとみんなご来光を見るために夜明け前から起きている人は多いのだが、ヨーロッパアルプスでは夜明け前から起きている人はそれほどいない。
習性の違いか。不思議である。
今回も外でこの景色を見ていたのは、この時間に出発していったスイス人おじさんと一人できていたおねーちゃんぐらいであった。
外で、この景色に浸っているとなんだか、
”ドーーン”
という大きな音がした。
ジェット機のような音でもあるが、飛行機なんて飛んでない。
山の中から聞こえてくる。
雪崩だろうなと思った。おねーちゃんにも聞こえていたらしく、2人であれは、見えなかったけど雪崩だろうという結論に達した。
ここの朝食は7時半だったか。
ヨーロッパアルプスの朝は日本の山小屋の朝に比べるとのんびりだ。
朝ごはんは、いつも通り。コーヒーと黒いパンとバターとジャム。ここでは、ミューズリーもあった。いつもながらなんだか物足りない。イングリッシュブレックファストとは、ボリュームに関してかなり異なる。
朝ごはんの時は、アメリカ人ご夫婦とお話をした。
その奥様がとても品のある、めちゃくちゃ優しい雰囲気の方なのだ。こんな素敵な雰囲気を持つ女性になりたいものだ。
そして支払を済ませて、9時ぐらに小屋を出発した。この小屋は、今週末で小屋を閉めるという。
ぎりぎりの宿泊だった。
小屋をでると、まずずっと下りである。昨日ふらふらしながら登った道を軽快に、下りて行く。
なんだかあっという間に、昨日の崖横の細い道に辿りつく。
今日はあいつは、下の安全道を通るという。
そして私が写真をバチバチ撮ったりして、黄色の派手なカメラ袋を引っさげて歩いていると、”ちんどん屋”とまた言う。
そうなのだ。今日は、更にひどい。蛍光ピンクのシャツに、暑いのでフリースを腰に巻いて、エメラルドグリーンのザックをしょって、黄色のカメラバックを持つと、ちんどん屋本格営業開始なのだ。
最近日本で流行っている山ガールとは、天と地の差があるようだ。
今日も本当にいい天気だ。けどさすがに、天気が続き乾燥している道で、直射日光にずっとさらされていると、日影や雨が恋しくなってくる。
だが、こんな素晴らしい天気に恵まれたのだ。感謝しなくては。
標識に従って、ずんずん今晩の宿泊地ヘルンリヒュッテを目指していく。
スイスは標識がほぼ完璧なので、ほとんど地図を見ることはない。というか白状するとこのエリアのきちんとした地図を私は持っていない。いいかげんな観光地図だけしかもっていない。
(それが今回なぜか道を間違えた原因だが・・・。)
今日は、STAFELというところで、ランチ及び水分補給をして近道で小屋まで行きたかったのであるが、なぜかSTAFELを通り越してしまったのだ。
登りの途中で、遥か下にSTAFELのレストランを発見した時には、がっくりした。
そうなるともう近道で行くルート上には、小屋もお店も何もないので、少々遠回りをして、食糧、水分補給をしてからいかなくてはいけない。
まあ仕方がない。おまけにまだ時間もあるし、大丈夫だ。
ということで近道ルートではなく、ロープーウエィ駅もあるSCHWARZSEEを目指すこととした。
だがしかし!
あいつが途中でヘルンリヒュッテ行きの標識を発見し、こっちだよという。
全く、私の説明も聞いていないし、食糧と水がないことがどういうことかもわかっていない。
こんな食糧も水も十分ない状態で、あいつはともかく、私は今日の小屋にたどり着くことはできない。
それで、さっきした説明をまた繰り返し、SCHWARZSEE目指すこととする。
今回はどうやらマウンテンバイクの道に迷い込んだらしく、マウンテンバイクで気持ち良く爽快に下って行く人たちがたくさんいた。
結構楽しそうだ。
けどこういう系の道を登るのは、それほど楽しいものではない。やはり山中の”山”って感じの道の方が歩いていた楽しい。
そしてロープーウエィの駅近くになるとちらほら日本人観光客らしき人たちも見かけるようになる。
やっとSCHWARZSEEのレストランまで辿りついた。
さてここでランチである。
こんな最高の天気の日である。いつもであれば、迷わずにテラス席をぶんどるが、今回はこの直射日光にかなりやられているためにこの私が建物の中の席を選択した。
2、3日かんかんの日光にさらされているとさすがにきついようだ。
普通の観光客っぽい人たちがたくさんいる。なんだかさっきまでの雰囲気と全く異なる世界がここにぽつりとある。
今日のランチは、ヨーグルトとスパゲティボロネーズ。
300g以上はあるのではというヨーグルトをまず一人で完食。なぜか、体が一番欲しているものだった。
あいつもボロネーズとジュースたくさん。
それとこれからの水も購入する。
このランチと水だけで、昨日の2人分ぐらいの宿泊料となる。
スイスの物価はよくわからない。
山小屋は良心的値段であるが、普通の観光客には容赦ないスイスというところか。
ふとマッターホルンを見ると、もういつもの形にもどっている。そして、その付け根のところに、これから行くヘルンリヒュッテが見える。
SCHWARZSEEレストランで、栄養、水分補給をし、これから私がここ数年来ずっと行きたかったヘルンリヒュッテまでである。
SCHWARZSEEから2時間10分と書いてあった。
だがしかし、これはスイス時間であり、私時間ではない。
レストランでしっかり休養したので、出発したのは2時過ぎぐらいだったのではないかと思われる。
はじめから山道っぽい雰囲気で、結構楽しい。やはり、この登っているという感じがうれしい。
ちょっと登ったところで、赤ちゃんを連れた日本人夫婦と出会った。
ここまでで、もう戻ると言ってはいたが。
すごい。あんな赤ちゃんを連れて、ここまで来るなんて。
なんとなく勝手な予想であるが、山ガイドとかやってた人ではないかと思ってみたりする。
そして私は相変わらずとろとろと進み、あいつがところどころで待っている。
途中で、冬にはリフト駅となる建物を通り過ぎたところで、なんだか恐ろしい風景をみた。
山小屋は、しっかり見えるが、小屋に通じる道が全く見えない。
かつ断崖絶壁みたいなところを登らないかぎり小屋に到着しないような雰囲気だ。
いや。そんなはずはない。クライマーの世界は、ヘルンリヒュッテ以降だとどこかのガイドブックに書いてあった。
ガイドブックを信じて、目の前に続く道を登って行く。
今日は天気がよかったからか、小屋までのハイキングを楽しんでいた人達がたくさんいたようで、たくさん人が降りてきた。
この時間にちんたら登っているのは、私たちくらいだった。(正確にはちんたら登っているのは、私だけ。)
途中日本人カップル1組ともであった。
そしてそんなハイキング客に混ざって、ヘルメットを被り、太いロープを持っている人たちも通りすぎる。
彼らこそ本当にマッターホルンに行ってきた人たちだったのだろう。
高度もいい感じでぐんぐん上がっていく。けれども、なんと私は今日の山小屋の標高をよく把握していなかった。3000mぐらいとか適当に思いこみをしていただけだった。(実際には、3260Mだった)
緩やかな砂地を通り過ぎると岩だらけの道のジグザグの登りとなる。なんだか苦しい。少し歩いただけで、ぜいぜいする。3000m過ぎているみたいだ。
けど、なんだかこんな山道やっぱり好き♡ あいつはへろへろで登っている私がこんなこと思っているなんて、とても思いもしなかっただろう。
あいつはあいつで、この山道を見て富士山を思い出していたという。
あいつは、結局たったか登っていき、私よりも先に小屋に到着。小屋のテラスでちょこんと飼い主を待つ犬のように待っている。
チェックインぐらい先にしてくれればいいのに。。。
私が到着したのは5時半くらいだったか。
小屋に入るととても閑散としている。
そしてアジア系と思われる人たちがいた。おお、ネパール人か。と勝手に想像する。
この予想が正しいかどうかはわからないが、意外と日本の山小屋にもネパール人の人が働いているのだ。私がいた山小屋にも、すごいシェルパがいたし、他の日本の山小屋でもネパール人と会ったことがある。
そしてネパールの人たちは、日本のことを結構よく思ってくれているのだ。
全然話はそれるが、自宅近くのネパールレストランの人たちも私たちにとてもよくしてくれるし、たまに会うネパールの人たちは、とても日本のことを知っているし、日本のことをよく思ってくれている。
ここの山小屋のシステムは、日本と似ており、先払い、現金のみ受け付けであった。
確かにこの方が効率的である。
ここも川の字になって寝るところである。
寝床の準備などをしていると同じ部屋に男の人が入ってきた。同室の人だろう。
そしてマッターホルンに登るのか聞いてくる。
いやいや。私たち(というか私)はなんちゃってなので、そんなおそろしいことはしない。
”いや、私たちはここまでだよ。”
と答えると、彼はちょうど今マッターホルン登頂して帰ってきたという。
”おお、Conguratulation !!!”
と祝福した。
やっぱり何かを成し遂げた人の笑顔はよい。
そして英語のネイティブそうだったので、どこから来たのか聞いたら案の定イギリス、リバプールという。
今回の旅で初めて出会ったイギリス人だ。
彼は、なんとモンブランにもつい数日前に登頂し、今日マッターホルンという。
いやいや。すごいとしか言いようがない。
そしてなんだか門前仲町に友達がいて、日本に行ったこともあるし、富士山にも登ったと言っていた。
こんなところで門前仲町って単語がでてくるなんて・・・。
夕食は、7時だったか。(もう忘れてしまった。)それまで、お茶をすることにした。
あいつはコーヒー、私はミルクティー。
外で飲もうとしたが、寒いので小屋に入って飲んだ。
このガラスのカップがキリマンジャロで使っていたのととても似ているので、キリマンジャロの記憶がふと蘇る。そしてあいつにキリマンジャロで習った知識、高山病対策には水分を摂るのがいいのだとか偉そうに教えてあげた。
今は、ビールよりも砂糖がたっぷり入った暖かいものを体が欲していた。
ティーバックのミルクティーだが、本当においしかった♡
夕食は7時ごろからだったか。
食堂みたいなところに行っても夕食みたいな雰囲気にはなっていない。
うろうろしているとフォークとナイフを渡され、待っていろと言われる。
それなので、空いているテーブルに座っているとそこまで料理を持ってきてくれた。
そして夕食を食べる人がここではとても少なかった。
なんとなく雰囲気的にであるが、ここに宿泊する人たちは、マッターホルンを目指す人たちの割合が多いのではないだろうか。
私たちみたいななんちゃっては、だいたい日帰りなのではないだろうか。
マッターホルンを目指すような人たちは、大体自分たちで食べ物などの管理はしてそうな感じである。
小屋の外で自炊している人たちもいた。
それからいいのだか悪いのかは知らないが、外で3つぐらいテントが張ってあった。
夕食は、まずスープ。これは大体どこでも一緒である。
それからここでは、サラダはなしで、メインとなった。
メインは、マッシュポテトにハッシュドビーフ?みたいなのといんげん。
めちゃくちゃおいしかったが、かつ量もものすごく、完食するのがかなりつらかった。けど時間をかけて、いただいた。
ふと小学生の時に、給食が食べれずに昼休みに残された苦い記憶がふと頭をよぎる。
最後はデザート。缶詰の白桃にチョコレートムースがかかった感じのであったが、このチョコレートが甘すぎず、絶品であった。
やはりこんな山奥でも、イギリスのデザートとはレベルが違う。
夕食後に、あいつが外に出るとなんと、この時間に登っている人がいると報告してきた。
まさかと思いマッターホルン側を見ると確かに、2,3つのヘッドライトの光が上に向かっている。
ひえー。なんでこんな時間に登り始めるのか。かつ今夜は天気が変わるのだ。
案の定、ピカーっと空全体が光る。雷でマッターホルンの形が浮かび上がり、結構きれい。
だがしかし、3200mでの雷かあ。ちと怖いとなんとなく思う。
外がぴかぴかしている中で、ヘッドライトたちがなんとなく下の方向に動いている気もしたが、その後どうしたのだろうか。
そして反対方向に視線を動かすとZERMATTの街の明かりががかなり下の方に見える。
結構きれいだ。
小屋に戻ってからは、あのリバプールのイギリス人となんだか話し始めた。
彼はガイドらしき人と一緒にいたようだ。(もしかしたら友人かもしれないが?)
今日かれは朝5時半ごろにここを出発し、私たちがここに到着した時間と同じぐらいに戻ってきた。ということは約12時間マッターホルンと闘っていたことになる。
彼の写真に収まったマッターホルン頂上や行くまでの景色を見せていただく。
まだ雪があったり、いずれにしても私レベルではとても到達できない世界である。
ちなみに彼は、世界各国を訪れており、日本に対しても変な偏見を持っておらず、むしろ日本の思い出とかを楽しそうに話してくれた。
やはりいろんな世界を見ている人は、違うのだ。
世界を知らない人達が、異質な文化、人種を否定するのだろう。
彼は、キリマンジャロにも行ったと言っていた。彼は、マラングルートだったらしい。私は、しっかりマチャメルートだよと答えておいた。
けどうれしい。これでキリマンジャロ登頂してなかったら、こんなこと胸張って言えない。
カメラに収まった彼のバンジージャンプの映像も見せてくれたり、3人でかなり盛り上がった。(と私は勝手に思っている。)
夜はまた芋虫になって、眠る。今日は3200mだ。昨日よりも夜に目を覚ます回数が多かった。起きる度に、窓の外をみて、まだ朝じゃないかどうか確かめる。
そして、何回目かに起きると外がピンクになっている。
はっきり言って今日は、天気も悪くなる予定であったし、昨日の夜は雷だったし、全然期待していなかったのだ。
だがしかし、今日の朝も天気がよかった。