August 2006

堀江 敏幸
いつか王子駅で
堀江敏幸という人は2001年に芥川賞も受賞してるみたいだけど、あんまり知られていない(?)ような気がする。
ぴもーの知り合いでも知っているという人を見つけられない。
明治大の助教授様らしい。

読者を惹きつけて離さないような文章ではないけど、とてもいい文章を書いていると思った。
どことなく志賀直哉のような雰囲気も感じる。
小学生のころ、遊んで帰る時にかいだ夕方の匂いのような文章。
でも単に懐かしさや郷愁とも違う、静かな矜持のようなものも感じる。
結構ぐっと来る言葉が多くて何度か読み返した。

作品は東京の荒川近郊の下町が舞台で、特別なストーリーがあるという感じではなく、作者の日記のような雰囲気がある。
東京の地名や昔の名馬の話、さまざまな本の話が出てきたりするので、そのへんの知識があると一層おもしろいだろなー。逆にぴもーは、この本を読んでもっと馬や本や東京に詳しくなりたいと思った。

待つことと待機の違いについて書かれている部分があって、なかなか興味深かった。
待機は次の行動に向けたアイドリング状態であり、待つことはまったく無為な完全な静止状態であるそうな。
来ないものを待つことと必ず来るものを待機すること、どちらが器が大きいかは明白。
さらに、待つことを知っている人は心の「のりしろ」を持っている。
それは、他者や仲間、そして自分のために余白をとっておく気遣いと辛抱強さ。そこに糊をきちんと塗らなければ形が整わない、最後には隠れてしまう部分に対する敬意を忘れてはいけない。
自然にそういうものが身に付いている人にぴもーは憧れる。
ぴもーには間違いなく身に付いていないものだけど、でもこれを書いていることは「のりしろ」といえるのかもしれないなー。

主人公(というのもはばかれるような気がするけど)は、美しい仕事をする職人たちから「普段どおりにしていることがいつのまにか向上につながるような心のありよう」というものの存在を知る。
変わらずにいることが、結果として前向きだったなと、後からわかってくること。自分のリズムで日々の仕事を一生懸命やる。でも一生懸命やったから勝ち負けは関係ないというのとも違う。だからといって何を差し置いても勝たなければならないというのもおこがましい。この矛盾に折り合いをつけるのではなく、矛盾を超えた発想。「逃げではないありのまま」を自問し続ける生き方。

うーん。わかるようなわからないような。。。
言いたいことは伝わるけど、内容的にぴもーごときがわかるって言っちゃいけない気がしてしまう。
生き方に対する考え方がまたひとつ広がった。
とてもいい文章だった。