January 2006


村山 由佳
翼―cry for the moon

この本は友人の紹介。とても友人らしいチョイスだと思った。人が薦めてくれた本を読むということは、いろんなジャンルを知ることができると同時に、薦めてくれた本人についての理解も深まる。改めてそんなことを感じた。


舞台はアメリカ。人種差別、父親の自殺、虐待、トラウマ、不吉なジンクス、新婚の夫の死、遺産相続・・・こう聞くとめちゃドロドロのストーリーなように感じるけど、そんなんじゃない。なんでだろ?すごくシビアでリアルな問題を扱ってるのに、とても優しくて切ない。恋愛がテーマではないのだけど、とても切ない。


ネイティブアメリカンが今どんな暮らしをしてるかってこともぴもーは全然知らなかった。昔と同じ生活をしている者はほとんどいない。かといって白人と同等の暮らしをしているかというとそれは大きな間違いで、高等教育は受けられず、低賃金労働しか職はなく、アル中になる者が多い。。。結構屈折した考えを持っている人もいる。でも心の根幹には伝統的なものは残っている人も多い。


共感できるかって観点でいうと、主人公は繊細すぎて、ぴもーには共感できないところも多かった。そもそもぴもー自身が能天気に育ってるのに対して、主人公は結構不幸な生き方してるからだろうね(×_×)でも繊細な文章なので、節々で登場人物の心の動きがよくわかる。


それとぴもーにはもったいなく思えてならないのは、最後に主人公が大都会に帰っていくこと、。アリゾナの地で、子供と安らげるパートナー(になりえる人)と安らかに暮らすことがなぜできないのだろう。伝統的な生活が強いられるわけではなく、それほど不自由なく暮らしていくことはできるのに。自分が生きてきた場所というものはそれほど大事なのだろうか?都会に対する執着?夢のため?キャリアを無駄にしたくない?


でも・・・ぴもーもその立場だったらそうするのかな?ぴもーは将来、世捨て人になってしまいたいという密かな願いを持ってるんだけど、そんなのいざってなるとやっぱり無理なのかなぁ(-。-;)あ、でも考えたら主人公はぴもーとほぼ同じ年齢だ。それで羊を飼って質素な生活をするってのは・・・やっぱ無理だな。今無理だったら将来もやっぱり無理かも。30年後は「もう無理だ」と思ってるかも。


なかなかいい言葉がたくさんあった。クサいものもあるけど、ぴもーは好きだ。

「Just a feeling。幸せってのはつかもうとすれば逃げていく。その時その時にただ感じるもの。」

「車の中には五人分の沈黙が満ちていた。」

「変わりがないなら、わざわざ口に出して言う必要はない。物事は、自分と、自分がどうしてもわかってほしいと思う相手とがきちんと理解し把握していればそれで充分。」

「金や食べ物と違って愛情とか思いやりってのは本人が充分にもらって満たされていない限り、誰かに分けてやりたい思っても無理だ。」

「相手を知り、それによって自分を知っていく過程はそのまま、相手との間で培えるものの限界が明らかになっていく過程でもある。」

「春は冬に始まる。生は、死を糧としている。死もまた生を糧としている。命が誕生した時、すでに死は始まっている。」

「昨日を憂えず、明日を測らず、いつか海へとたどり着く日のために、ゆるやかに流れ下っていく川。」

「精霊が実際に存在するかどうかはそんなに重要じゃない。祈る側が精霊の存在を心から信じるならばそれは存在する。重要なのは想像の及ばない何かが存在するかもしれない可能性を受け入れることにするかどうかだ。」

「目に見えるものが真実とは限らない。人は答えを自分の外に探そうとする。外側にあれば目で見て安心できるから。でも本物の答えはいつも自分の中にある。見えないもの、さわれないもの、聞こえないものの中にこそ、真実は隠れている。そういうものを信じて、つかんで話さずにいるのは難しい。が、不可能ではない。」

「cry for the moonと思うかもしれない。でもたとえ苦しくても、求めなければ何も手に入らない。」

などなど。。。


それぞれなんで好きかってことを書き出すとキリがないので書かない。このチョイスからもぴもーの性格判断ができるかも(笑)なので、好きな理由は読者の想像におまかせします。ぴもー自身も読書録を読み返すと、なんでここに感動したんだっけ?と思うことがあるかもだけど、それはそれでおもしろい。


これは結構お薦めの本。女の人に受けそうだけど、男の人にも読んでほしい。 cry for the moonの意味を初めて知った。