「海の沈黙」を鑑賞しました。
巨匠・倉本聰が60年もの間構想を練ってきたという、渾身の物語。画壇を追われた孤高の天才画家が持つ、美と芸術への熱い思いと執念に、秘められた恋が重なり、複雑なストーリーが展開される。オールスターキャストによる緊迫の演技に圧倒されるが、しかし・・・。
世界的な画家・田村修三(石坂浩二)の展覧会で、展示作品のひとつが贋作だと判明する事件が起こる。報道が過熱する中、北海道・小樽で女の死体が発見される。ふたつの事件の間に浮かび上がった男が、かつて画壇を追われた天才画家・津山竜次(本木雅弘)だった。報道を知った、かつては竜次の恋人で、現在は田村の妻・安奈(小泉今日子)は小樽へ向かう。そこには竜次に仕える謎の男・スイケン(中井貴一)や全身刺青の女・牡丹(清水美沙)など、様々な人間の存在があり、事件は複雑に絡み合っていく・・・。
年が変わると90歳を迎える倉本聰の“最後の映画”に集結した豪華キャストに、まずは驚く。本木雅弘、小泉今日子、中井貴一、石坂浩二に加え、仲村トオル、萩原聖人、佐野史郎、田中健等、メインを張れる役者の演技は本当に素晴らしい。だがストーリーの奥深さ故に、112分では到底描き切れない部分が大きい。竜次は画壇を追われた後、今日までどのように生きてきたのか?スイケンとは何者か?牡丹や医師との関係性は?小樽漁港の人々との繋がりは?・・・などが不明で、観客を置き去りにしたままストーリーは進んでいく。倉本氏が訴えたかったことは、美術品の価値は作家の名前が重要であり、どんな名品も作家の名前が付いていなければ価値はないという風潮に納得が出来ないとのことであった。しかし現実的に、一般の人々は作家の名前で展覧会へ向かうのであり、無名の展覧会に多くの人が集まることはないだろう。個人が楽しむ美術品などは個々の趣味で選べばよいが、美術館で開催される展覧会は、美術鑑定士やキュレーターの存在を無視しては成立しないだろう。
本作品は役者のクローズアップが多用されており、本木雅弘のクローズアップは美しいが、再三クローズアップされる小泉今日子のそれは、「シン・ウルトラマン」の長澤まさみとは違い、後半は引き気味になる。