まずTCDとは「航空機や部品の安全性を確保するために、改造や点検が必要であると航空局が判断した場合、航空局が航空機の所有者に対して発行する。」ものです。法的拘束力があります。

ここで大事なのは所有者です。従わない場合は所有者が罰則を受けます。

使用者ではなく所有者です。なぜだかわかりますか?

 

整備や点検を管理しているのはほとんどの場合所有者だからです。

飛行機をレンタルする場合を考えるとわかりやすいでしょう。

レンタルしようとしたら、「その飛行機TCDが出てます」なんて急に言われてもどうしようもないですもんね。

 

ではどういう時にTCDが出されるのでしょう?

 

TCDが出される時には、まず以下の事象が起こりその中で異常等が見つかり航空局が安全のために必要だと思った時に出されます。この三段階ですね。

 

以下の事象とはこのことです。

1. 航空法第10条による耐空証明のための検査又は第17条による修理改造検査 

  ⇨これは普段の耐空検査や外国から航空機を輸入した時などに行われる検査のことです。

2. 運輸安全委員会設置法第18条による航空事故調査が行われたとき

  ⇨事故調査が行われて機体の設計や構造にそもそも問題があれば改善する必要が出てきますよね。

3. 航空法第134条による立入検査を行ったとき

  ⇨この134条は、整備や点検が普段からちゃんと行われているか調査しにくるやつです。これ、前もって言われる時もありますが抜き打ちで来る時もあるんですよ。ここで何らかの異常が見つかることもあるんです。

 

4. 同じような故障が頻発したとき

  ⇨同じような事故が頻発するってことは航空機の設計等に問題がある可能性が高いですよね。

 

5. 航空法施行規則の附属書第1、第2、第3又は第4が改正されたとき

  ⇨それぞれ以下のことです。

これって耐空証明を取るときに検査される項目ですね。

耐空証明の検査基準が改正されればそりゃ今ある航空機の点検や改造が必要な場合もありますよね。

 

6. 外国民間航空当局が発行した耐空性、騒音又は発動機排出物に関する改善命令 

  ⇨上記5の外国バージョンが起こった時、と考えれば良いでしょう。上記は航空法なので日本のことです。つまり耐空性等の基準も日本のものです。とはいえ外国で「この航空機のこの部分は点検が必要だぞ!」みたいになったとしたら日本でも気になりますよね。同じ航空機を使っていることだって多いのですから。

 

7. (AD)等を入手したとき

  ⇨AD (airworthiness directive)っていうのは米国連邦航空局からの耐空性改善命令のことです。

ちなみにTCD (technical circular directive)を一言でいうと日本の航空局からの耐空性改善通報 です。

つまりTCDのアメリカバージョンがADですね。

ってことでそりゃADが出たら日本だって無視できないですよね。

 

8. その他航空局が必要と認めたとき

 

 

以上8つの事態が起こり、その中で「これは改造や点検が必要だ!」となったらTCDが出されます。

 

ではTCDを無視するとどうなるのでしょう。

 

TCDを実施しない場合の航空局の処置

報告を要する項目について期限までに報告がない場合及び適用項目の内容を所定の期日までに実

施していないことが明らかになった場合は、航空機の所有者又は使用者に対し、報告提出の催促、航 空法第14条の2第1項に基づく整備改造命令又は航空法第134条第2項による立入検査を行った上、

航空法の規定により耐空証明の有効期間の短縮又は耐空証明の取消しを行うことがある。

 

 

ここでややこしいのが「所有者又は使用者」です。

なぜTCDは所有者に対して出されるのに、この催促や命令は使用者にも出されれるのでしょう?

機長の出発前確認を考えればわかりますね。

使用者ってつまりはパイロットですね。

 

出発前確認でTCDの確認をやるのは機長の義務です。

TCDの期限が過ぎているのに何も行っていないでフライトをしようとした場合は機長は義務違反になります。

だから航空局も期限を過ぎると「おいおい何飛ぼうとしてんだよ」ってことで使用者にも催促や命令がきます。

 

要するに、罰則を受ける可能性が生じている人に通知、命令、催促が出されるんですね。

 

TCDの期限内であればTCDが出ていても飛んで良いので、この期間ならパイロットが罰則を受ける可能性はありません。しかし所有者は期限が切れてからでは遅いのでこの時点で、罰則を受ける可能性を内包しているといえます。

 

TCDの期限外では所有者は罰則があります。パイロットは出発前の確認でこれを見落として今うと罰則が適用されます。つまりTCDの期限が過ぎてからはパイロットは罰を受ける可能性があります(飛ばなきゃ大丈夫です)。

 

通知、命令、催促は罰を受ける可能性が出て来た人に対して行われるのでTCDの期限が過ぎると対象が使用者まで拡張されるんです。

 

 

あと、TCDの期限が過ぎるとすぐに耐空証明の取消しとはならず、催促、命令、立入検査等が行われると覚えておきましょう。