汲む

おとなになるというのは

すれっからしになることだと

思い込んでいた少女の頃

立ち振る舞いの美しい

発音の正確な素敵な人に会いました

そのひとは私の背のびをみすかしたように

何気ない話に言いました。


初々しさが大切なの

人に対しても世の中に対しても

人を人と思わなくなったとき

堕落がはじまるのね 落ちてゆくのを

隠そうとしても 隠せなかった人を何人も見ました


私はどきんとし

そして深く悟りました


大人になってもどぎまぎしたっていいんだな

ぎこちない挨拶 醜く赤くなる

失言症 なめらかでないしぐさ

子供の悪態にさえ傷ついてしまう

頼りない生牡蠣のような感受精

それらを鍛える必要は少なくしもなかったのだな

年老いても咲き立ての薔薇 柔らかく

外にむかってひらかれるのこそ難しい

あらゆる仕事

すべていい仕事の核には

震える弱いアンテナが隠されている きっと、、、

わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました

たちかえり

いまもときどきその意味を

ひっそり汲むことがあるのです



ふー。

詩を書き写すのは結構神経が入りますね

漢字で打つのか

ひらがなで打つのかでも

違ってきちゃうから^^;


この詩の作者茨木のり子さん。

今月のSUPRに戦後現代詩の長女と紹介されていた。

,,,伴侶に23才の時に見合いで知り合った方と結婚した.

向かなかった薬学を捨て戯曲や詩に夢中になっていった。

新しい医学を目指していた彼は

「卑しめたり,抑圧したりすることがなく

むしろのびのび育てようとしてくれた」そうだ。


久しぶりに

詩で感動した。

彼女の言葉一つ一つが

コンペイ糖を食べた時のように

入ってくる。

口に入れたとき

少しざらつき,唾液と混じり,甘い味が溶けだし

次第に丸くなり,甘い後味だけが残る。

そんな感じ。