大学生の頃ですから、かれこれ20年以上昔になります。そのころ鉄道旅が大好きだった僕は、夜中に渡る青函連絡船に乗って、早朝の青森駅に着きました。駅の横に朝市があったため、改札口を一回出たのですが、朝早い駅の待合室には、夜をそこで明かした人たちがたくさんいました。何となく待合室に入ってみたところ、その中の1人に話しかけられたのです。「あんた、何を持っているんだね。」そのとき手にしていたものは漫画雑誌、素直にそう答えると続いてこう聞かれました。「あんた、こんな本はよまないのかね。」見せられた本は文藝春秋。残念ながら僕は一度も読んだことがありませんでした。少し恥ずかしさを覚えていると、次にこんな事を聞かれました。「大韓航空機撃墜事件についてどう思うか。」少し前に起こった事件の話です。「領空侵犯をしてしまったのですから、ある意味仕方がないのではないですか。」と答えたところ、「それは違う。人の命はなんにも変えることができないんだよ。もっと違う処理の仕方があるはずだ。」 と明快に否定されました。最後に僕は職業を聞きました。「土方だ。」ちょっと胸を張ってこう答えてくれました。気恥ずかしさが先に立ってしまって、ここで席を立ってしまったのですが、もっといろいろな話を聞けば良かったかなと今では少し後悔しています。と同時に少し甘酸っぱい青春の思い出です。そして、僕は今でも「職業に貴賤なし」ということを、肝に銘じて仕事をしているつもりです。