南がそっと二人の間に入った。

「・・もう、やめよう。お互い傷つけたって何も生まれない、」

冷静にそう言った。

「・・あたしが。ホントに・・なんも考えてなくて。いつもヘラヘラ生きてきたことは・・認める。でも！この仕事をやりたい気持ちは変わらない、」

そう言って部屋を出て行ってしまった。

「あ、おかえりなさ・・」

リビングで母がテレビを見ている時、真緒がもうすごい勢いでずんずんとすごい形相で早歩きで何も言わずに部屋に直行していた。

そしてそのままベッドにダイブした。

悔しくて。

涙が出た。

兄の言うことがあながち間違っているとも思えない。

だけど。

こんな気持ちこれまで生きてきて初めてで。

必ず返事をします

自分のこんな思い付きのような無謀な計画にも真摯に受け止めてくれた初音のことを思い出す。

聡明な彼のことなので

兄と同じようなことは絶対に考えたはず。

それなのに。

すぐにこの甘さを指摘せずに一度受け入れてくれた彼のことを思うと、どうしようもない罪悪感が湧いてくる。

「・・行ってきます、」

翌朝、真緒は夕べの真太郎との口論を引きずって、ものすごく暗い表情で家を出た。

「くら・・」

ゆかりは思わずそう言って食事を摂っていた北都を見やった。

彼は特に表情を変えずにいつものように黙々としていた。

「南ちゃん、おはよう。これ。もらいもののイチゴなんだけど。すごく美味しいのよ～。　あたしすっごい食べちゃった。」

その後、母は階上の真太郎宅にお気楽にイチゴを持って行ったのだが、こちらも異様に空気が重くてさすがの彼女も

「・・こっちも。空気が重いじゃない。　いったいどうなっちゃってるのよ。真緒は昨日帰ってからめちゃくちゃ落ち込んでるし、」

黙ってダイニングで新聞を読む真太郎。

それに気を遣いながら黙って食事を摂る南。

そしてスーッとゆかりに近づいて

「・・昨日。真太郎と真緒ちゃん。めっちゃすごいケンカしちゃったんですよ・・」

ボソっと言った。

「はあ？ケンカ？　この年で？　兄妹ゲンカ？」

呆れて大声が出てしまい、それにピクっと真太郎が反応した。

「真緒ちゃんが。野々村初音さんと今の仕事のような飲食店コーディネートの会社立ち上げたいって思ってて。　それで真太郎にどうしたらいいかって聞きに来たら。『甘い！』って怒っちゃって。　そうしたらそこからもう・・真太郎が『そんなことだから結婚生活も続かないんだ！』って言っちゃったら、もう・・」

南がざっと説明した。

真太郎は新聞を持つ手がわなわなと震えてきた。

真緒と真太郎は大喧嘩をしてしまいました。南はそのことを母ゆかりにそっと話しますが・・

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小説（森野日菜） - カクヨム

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