真緒がシャワーを浴びに行こうとしたとき、

「その前に。ちゃんと初音さんにお礼を言ってちょうだい。」

ゆかりは味噌汁をすすってから冷めたように言った。

「・・は？」

「夕べ。車降りてからあなたの寝室までおんぶして運んでくれたの初音さんなのよ。この階段上って、」

階段を指さした。

全くその記憶がなかった真緒は一生懸命記憶を取り戻そうと固まった。

「いえ、それは・・」

初音はゆかりと真緒を交互に見やって慌てた。

またサーっと血の気が引いた。

「・・そ、それは。　す、すみません！！　重かったでしょ？重かったでしょ？」

慌てて初音にすがるように訴える彼女に

「い、いえ。」

初音はビビった。

「や！重いはず！この頃体重も増えちゃったし！ダイエットしなくちゃって思ってたところだったし！わーーー！どうしよう！！」

そう言って真緒は恥ずかしさのあまり走ってリビングを出て行ってしまった。

「自分の体重のことしか考えてないじゃない・・。　まったくもう、」

ゆかりは呆れてまた平然とごはんを口に運んだ。

それがおかしくて初音はうつむいて笑ってしまった。

「・・手のかかる娘で。」

ずっと黙っていた北都がボソっと初音に語り掛ける。

「え？ああ、いえ。・・真緒さんといると。楽しいです。あー、きっと今日からダイエット始めるんだろうなあとかわかりやすいところとか、」

またおかしくなって笑ってしまった。

「体。痛くない？大丈夫？」

ゆかりが心配したが

「農作業をしてる賜物です。どこも、」

「は～、さすがねえ。スクワットとか。得意そうね！　ね？」

ゆかりは北都に同意を求めたが北都もうつむいてクックッと笑うだけだった。

そんな夫婦の様子を見て初音も笑顔になった。

「・・というわけで。こちらがカトラリーを入れる小物入れ・・」

真緒はうつむきながらボソボソと説明した。

「どうしたの？顔色悪くない？」

紗枝は心配した。

「いいえ。なんでもありません・・。　あと写真撮ってきたんですけど、」

前後不覚になるまで飲み過ぎたことや

初音におんぶされてしまったことなど。

あまりに恥ずかしくてあれから彼の顔をまともに見られなかった。

「野々村さんは明日帰るの？」

紗枝が資料をそろえながら聞いた。

「はい。明日の朝イチの新幹線で戻ろうと思ってます。今畑もけっこう忙しいので、」

「忙しい所ありがとう。おかげで仕事はかどったわ。リモート会議もいいけどやっぱりこうして顔を突き合わせた方がいろいろ案も出るものね。また出張もお願いするかもしれないけど。無理のない範囲でお願いしますね、」

「はい、」

そうか。

もう明日には帰っちゃう・・

真緒ははあっとため息をついた。

真緒は何となく初音へのほのかな思いを自分でも感じ取っています・・

にほんブログ村

恋愛小説ランキング

↑↑↑↑↑

読んでいただいてありがとうございました。よろしかったらポチお願いします！

小説（森野日菜） - カクヨム

kakuyomu.jp

　で過去のお話を再掲しております。こちらもよろしくお願いします。

Betelgeuse(10)