一方、天音も。
ホスト側として忙しそうな母に疑問をぶつけられずにいた。
「天音さん?」
声を掛けられ振り返る。
「高野楽器の取締役の矢田部と申します。初音さんがこちらでお仕事をしていた時の上司です、」
にこやかに男性が立っていた。
「あ、はい。あっと・・初めまして。野々村天音です。あ、そうですか。兄が、お世話になって・・。あ。父です、」
隣にいた父を紹介した。
「矢田部です。ようこそおいで下さいました。社長も喜んでおられました。あとでご挨拶をさせてほしいと、」
「いえいえ。もう私のことは構わんといてください。初音もお世話になって・・。 本当にその節はありがとうございました、」
「初音くんは今日はいらっしゃってないのですね、」
「自分は畑があるからと。今回は私に行くようにと・・。」
「そうですか。もちろん社長から事情はうかがっています。まあ色々あったでしょうが。初音くんも天音くんも才能ある息子さんです。できれば高野で仕事を、とも思いましたが。人生は誰のものでもありませんからね。こうやってわだかまりなく野々村さんがこの場にいらしていただけるようになっただけでも・・本当に良かったと思っています、」
「ありがとうございます。・・過ぎたお言葉です、」
父は感無量の表情だった。
おれが知らん間に。
大人たちはたくさんの葛藤を乗り越えてたんやなあ。
おれ
ほんまに呑気に。
やりたいことやりたいだけやって。
なんも知らんと。
天音はつくづく思った。
そして。
コンクールの優勝者の演奏が始まった。
ここのピアノも調律させてもらった。
思わず聴き入った。
ドビュッシー『月の光』
静かに優しい音が会場を包む。
はああああ
・・音が。
いいっ!!
天音は自画自賛で思わずぎゅっと握りこぶしに力を入れた。
真緒も思わず足を止めて演奏を聴き入った。
そして初音のことを思う。
・・初音さん。
なんだかワケわからないことになってきました・・
「いや、おまえヤバいって!ほぼ毎日おれと会ってる時点で!」
「おれの行動範囲にいる友達がおまえしかおらん、」
「おっちゃん東京なんやろ?もう泊まってけ泊まれ、」
その頃初音は。
赤星の自宅に行って飲んでいた。
そこに
「あ!初音くん! あたしも一緒にのみたーい!」
赤星の妹美月がやってきた。
「おまえはええって。男だけのトコに入ってくんなや、」
シッと彼女を追い出そうとした。
「え~? ええやん。スナックで鍛えた美味しいハイボール作ってあげるし楽しいおしゃべりもお届けできるしー、」
美月はわざと初音にしなだれかかった。
「いいから!初音にくっつくな!」
「なんで兄貴にそんなん言われんとアカン!」
兄妹ゲンカを見て初音は楽しそうに笑っていた。
真緒と天音の疑問は解決することなくパーティーはすすみます・・
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