真緒は隣にいた兄・真太郎に
「・・どういうこと?ちょっと怖いんですけど、」
小声でコソっと言った。
「いや。おれもわからん・・。さっき急に言い出して、」
真太郎も戸惑っていた。
それもそのはず。
母・ゆかりは25歳で芸能界を引退してから。
一度も公の場に出たことはない。
夫婦同伴のパーティーにも決して出なかった。
もともとそういうことが得意ではなく、北都グループ総帥の妻となってもそれは一貫としていた。
子育てが一段落してからも芸能関係の知人友人の結婚式などの誘いも全て断り、のんびりと暮らしていた。
その母が!
真太郎も真緒も静かに驚いていた。
「難波会長のお別れ会が急に早まって行われることになって。高野楽器には申し訳ないが欠席させてもらおうと思っていたんだが。・・まあ。本人がそう言っているのだから、いいだろう、」
父は何事もない感じでそう言った。
「・・というわけで。お義母さんも久しぶりのこういう場やし。真緒ちゃん、お供してあげてくれる?」
南もやや戸惑いながら言った。
「え・・。あー、はあ・・」
なんとなく頷いた。
しかし
「え!ちょっと待って。お母さんと真緒で大丈夫?」
真太郎から待ったが入った。
「何よ、それ。」
真緒が不満そうにジロっと睨む。
「高野の100周年記念パーティーなんて大御所もたくさんくるだろう? だいじょうぶかなあ、」
「絶対粗相するみたいな言い方しないでよ!」
「いや、でも・・」
そこで
「まあ。大丈夫だろう。二人で行って来なさい、」
御大の一言で真太郎は渋々引き下がった。
「ただいま戻りました・・。 今日はこちらでお食事とのことだったので・・」
天音が帰宅した。
「あ。お帰り。今ゴハンにしようと思ったトコ。もー今月末の高野楽器のパーティーにお義母さんが行くってことになって喧々諤々でさあ、」
南が笑って席を立った。
「え、高野のパーティー・・」
ドキっとした。
「うん。ウチ昔から仕事上でも関連あるし。あたしと真太郎は行かれなくなったから。お義母さんと真緒ちゃんで行くことになったの。」
「・・あー、そうなんですか。」
天音はキッチンに行って南の手伝いをし始めた。
すると南はコソっと
「お義母さん、今までパーティーなんて絶対行かなかったのに。急にあたしが行く!って。真太郎も真緒ちゃんもびっくりしちゃって。芸能界引退してもう40年近く経つけど・・、」
皿にスープをよそってそれをトレイに乗せた。
「なんやろ。心境の変化かなあ。」
南は首を傾げた。
ずっと表の世界から遠ざかっていた母ゆかりが突然高野楽器のパーティーに行くと言い出して・・
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