adagio(12) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

加治木は成から手渡されたメモを手にして場所を確認した。

 

セレモニーホールにはほとんど人がいない。

 

もう通夜の時間は終わっているようだった。

 

頭の中がモヤモヤとしてはっきりしない。

 

何かを考えようとしても、勝手に何かがそれをかき消してしまう。

 

思考を停止したまま足だけが動いた。

 

 

「・・お忙しい所、ありがとうございました、」

 

出口で弔問客にあいさつをしている喪服姿の明日実を見つけた。

 

顔の色が白さを見て胸がシクっとなった。

 

「あ、」

 

明日実が棒立ちになっている加治木を見つけた。

 

慌てて目を逸らしてそっとお辞儀をした。

 

「・・来てくれたの、」

 

明日実は少しだけふと微笑んだ。

 

「・・中沢さんから、聞いて。」

 

「・・急だったの。 仕事先で倒れて。 クモ膜下出血で・・ あたしも病院に行った時には間に合わなかった、」

 

 

兄も、父も失い。

 

母の心も失ってしまった彼女の孤独。

 

『あの時』の思いがスーッと蘇る。

 

あんな気持ちになったのは初めてだった。

 

他人の気持ちが見えたことがなかった。

 

でも

 

あの時の彼女の圧倒的な寂しさが空気に乗って伝わってきた。

 

その事象に自分で驚いたことを今も覚えている。

 

あの時と同じ気持ちだった。

 

「・・父と暮らし始めて・・まだ8年くらいだったかな。 あたしが生まれた頃からずっと単身赴任であんまり家にいなくて。 正直、父親ってあんまり思ったことなくて。 それでも・・一生懸命あたしに寄り添ってくれようとしてた。 今までつらい思いをさせた、としょっちゅう口にして。ようやく父娘として・・暮らしていけるって思えるようになったんだけど、」

 

彼女の声が少し震える。

 

その震えも心に染みてくる。

 

「・・お母さんは。 もうお父さんに会っても、わからなくて。 親戚は葬儀につれてきたらどうかって言ったんだけど。 ちょっと今のお母さんには酷かなって思って。」

 

加治木は何も言えずに突っ立ったままだった。

 

「来てくれて。 ありがとう。」

 

ゆっくりとお辞儀をされて、

 

「あ、いや・・こんな格好で、来てしまって、」

 

いつものようにTシャツにリュックという格好が場違いなことにようやく気付いた。

 

「ううん。いいのよ、」

 

明日実は軽くそう言った。

 

「えっと・・」

 

どうしていいかわからずうつむいた。

 

「よかったら。 お線香あげてくれる?」

 

そう言われて

 

「・・お葬式とか。 来たことなくて・・」

 

戸惑った表情を見せた。

 

加治木は動揺を抑え明日実の父の通夜に向かいます・・

 

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