adagio(5) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

「セリシールでも。 ピアノから少し離れたバイトをして。 だけど・・ 本当に少しずつですけどピアノにのめり込んでいた時の気持ちを思い出したりして。 志藤さんの娘の家庭教師も。自分でもびっくりするくらい・・達成感があって。 色んな不思議な気持ちになっていきました。おれが今まで生きてきて・・感じたことのない気持ちがわいてきて、」

 

加治木はいつものようにボソボソと、それでも今までにないような艶のある声でみんなに言った。

 

「一生おれは。 こうやって生きていくって思ってました。何も欲しがらず、何も求めず。 淡々と生きるだけだって。 明日実と再会してからも・・なんか彼女と比べておれ、ぜんっぜん変わってないんだなって思い知らされて・・。」

 

ああ。

 

感情が乏しいと思っていた彼の中でたくさんの思いが去来していたんだな

 

 

さくらは何だかほろっと来てしまった。

 

「・・これからも。 セリシールで頑張ってくれる?」

 

また泣きそうになりながらさくらは笑顔を一生懸命に作った。

 

加治木は少しだけ考えた後

 

「おれが。 セリシールに必要ですか、」

 

そう問いかけた。

 

「バカね。 ・・当たり前じゃん。 きっとこれからのカジはもっともっとセリシールの為になってくれるって思うよ。 正直ね、あたし・・カジに成長とか?変化とか? あんまり期待してなかったよ。 でも・・天才的なピアノの技術があんたにはある。 それは本当に貴重なことだよ。カジにしか子供たちに教えられないこと・・たくさんあると思う。 だから、」

 

「先生、」

 

加治木はテーブルの上に置いた手をぎゅっと握りしめた。

 

 

 

さくらたちは加治木の家を出てゆっくりと歩いた。

 

「じゃあ、あたしはここで、」

 

地下鉄の入口で明日実は立ち止まった。

 

「・・古賀さん。 これからもよろしくね。いいイベントにしましょうね、」

 

さくらは優しく彼女に声をかけた。

 

「はい、」

 

「・・あたしたちに。 あなたの過去まで話してくれて。 どうもありがとう。 とてもつらいことだったと思う、」

 

「いいえ。 今はとても穏やかに過ごしています。 あたしの願いは・・カジくんがもう一度演奏家を目指してくれることなんですけど、」

 

「・・たぶん。 たぶんなんだけど。 もしこのことがなくても・・カジはきっとプロのピアニストにはならなかったんじゃないかなって、」

 

さくらはふと微笑んだ。

 

「え、」

 

「カジってそういう子だと思うの。 ピアノ続けていても・・裏方とか? 表に出ずに続けて行ったと思う。 ピアノとクラシックへの思いは本当に強い子だから。 音楽から離れたくないってことだけはわかる。 きっと・・カジらしく生きられる道がある。 あたしはそう信じてる、」

 

そのまっすぐな瞳に明日実は肩にかけたバッグの取っ手をぎゅっと握った。

 

劇的な変化はなくともさくらは加治木の「成長」が嬉しく・・

 

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