「でもねえ。 瑠依はあたしの子だけど。 あたしじゃないんだよね。 瑠依がサックスに夢中になって本当に嬉しそうに吹いているのを見て、だんだんとそう思うようになった。 瑠依を自分の思う通りに生きさせようだなんて・・親でもやっちゃいけない。 もうこの世に生まれた瞬間にあたしとは別の人間だもん。 瑠依の人生がある。 今は瑠依が好きなことをしてるのを見るのが・・あたしの生きがいかもしれない。 女親と男親は違うと思うけど。 耕ちゃんだってそう思ってる。 ホント、耕ちゃんはあたしより瑠依のことが好きよね。 大好きだもん。 あんたが生まれてから、大変だったけど・・仕事からいつも走って家まで帰ってくるのよ。 自分の時間を全てあんたに注いでた。 仕事帰りに飲みに行ったり、休みの日に遊びに行ったりもしないでね。 でもね。 子供はそれを恩義に感じる必要なんかない。 あたしたちがしたくて、したことだから。 耕ちゃんと結婚して、あんたが生まれてからは・・あたし後悔なんかしたことなかったよ。 そのくらい・・子供って愛おしいものだもん、」
祐美は懐かしそうに穏やかに遠くを見た。
「ひとつも後悔なんかないよ。 あたしたちが選んだ道は・・間違ってなかった。 だからこそ・・瑠依が高校を卒業して一区切りついたときにはリセットしないといけないなって思うようになったの。 もうわがまま言ってもいいかなって。 もし・・その後も耕ちゃんが一人で生きていくようなことになったら、少し後悔したかもしれないけど。 ・・先生と出会えてよかった。 ホントに良かった。こうして・・赤ちゃんも生まれて。 耕ちゃんのもう一つの人生が始まって良かった。 なんだかんだであたしたちすっごくラッキーなのかもね。 つらくて悲しいことも全て乗り越えられるくらい運命がいい方に向かった。」
決して賢い人ではないと子供ながらに思っていたけれど
この能天気な明るさが自分たち家族を救ってきたのかもしれない。
瑠依はどんどんと胸がいっぱいになっていくのがわかった。
祐美は思い出したようにバッグから手帳を取り出して、そこに挟んであった写真を見せた。
「見て。 この写真、お気に入りなの。」
そこには。
赤ん坊の自分を母が抱き、それによりそう幸せそうな父。
その笑顔が。
サラが持ってきてくれた彼女と純太のツーショットの写真に重なる。
たぶんあの写真から何年も経っていないであろう
母の変わらぬ姿。
隣には純太ではない父の姿。
瑠依はそれを手にしたとたん、何かでいっぱいになったものがどっと溢れてきた。
母の笑顔は同じだけれど
この間にどれだけの葛藤があったのか。
苦しんで苦しんで、悩みぬいて。
この3人の幸せそうな写真になった。
祐美が大切にしている「家族写真」を見て瑠依は複雑な思いを抱きます・・
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