「・・まだ・・・お父さんとお母さんには言ってないんだけど・・」
暖人はみんなで盛り上がって遊ぶ両親の笑顔を見た。
「え・・」
ゆうこと志藤は思わず顔を見合わせた。
「・・ちょっと離れてみようかって。 ちょこっと思って、」
暖人は照れたように笑った。
「離れてって、」
ゆうこは心配そうに言った。
「別に。 なんかあったわけでもなんでもないんだけど。 お父さんは相変わらず忙しいけど、お母さんは学校のことも塾のことも、健人の習い事の送り迎えとか。 すごくおれたちのためにしてくれて。 この前なんか部活の後、友達と話してて遅くなったらお母さんが健人乗っけて車で学校まで迎えに来ちゃって。 恥ずかしかった~、」
暖人は笑った。
何だか香織の一生懸命さが目に浮かぶようで。
「別に遅くなっても平気なのに。 いつまでもおれが小さいまんまだと思ってんだから、」
ゆうこは暖人がまだ小さかった頃、香織がどれだけ気を配って面倒を見てきたかを思い出していた。
「ずっとおれのこと・・心配してくれてんのわかってるから。 お父さんもおれのこと・・一人で育ててくれてた時は本当に大変だったと思います。」
暖人がきちんと自分の身の上を理解して
両親の思いをわかっている、ということにゆうこと志藤は少し驚いた。
「けっこうね、おれ小さい時の記憶とかあって。 わりと鮮明に覚えてる。 いきなり東京に連れてこられてきたこととか、」
暖人は明るく言った。
そういえば。
ゆうこはとあるできごとを思い出した。
まだ暖人が東京に来たばかりのころ。
大事に福岡から持ってきたリュックの中に2歳の時に父親に買ってもらった車のおもちゃが入っていたことがあった。
暖人はきちんと父親からどのような状況で買ってもらったかも覚えていて驚いた。
「お父さんと二人で暮らしていくんだなあって、ぼんやりとはわかっていたけど。 ずっと・・・『かおりちゃん』がいてくれたから。」
暖人はソファの背もたれに体重を預けて
穏やかに言った。
「おじいちゃん、おばあちゃんたちもいたけど。 おれはずーっと・・・かおりちゃんがいてくれたらいいなあって。 お父さんとつきあってる人だとか、全然わかんなかったんだけど。 ほんと自然に・・・かおりちゃんがお母さんだったらいいのにって。 だんだんと、いつなってくれるのかな、とか。 子供心に考えてました、」
そしておかしそうに笑った。
当時。
香織と樺沢は母親と離れて混乱しているであろう暖人に気を遣って
できるだけ、今までと同じように接していようと
大変な気配りをしていた。
志藤もゆうこもそのことを知っていただけに
今
暖人の本当の気持ちを聞いて
小さな驚きを覚えた。
暖人は両親の溢れんばかりの愛情をきちんと受け止めていました・・・
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